人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
「でもね、貴女が灯油を用意して、と従業員に命令したのを複数の人たちが聞いているのよ。説得するのに、灯油は必要ある? ないでしょう。あと、その女の子がユベールくんの家にいることを知っていて、説得しに家まで行くというのがね。それなら、ユベールくんを呼び出す方が賢明だと、お母様は思うのだけれど」

 シビルの背中を優しく摩りながら、諭す女将さん。その口調からも、シビルへの深い愛情が感じ取られた。けれど、当の本人には伝わらなかったらしい。

 女将さんを突き飛ばしたのだ。よく見ると、その手はただれていて痛々しい。だからこそ、どこからそんな力が出てくるのか、疑問に思ってしまった。

「信じられない! 私がこんなにも辛い想いをしているのに、酷いわ! 味方になってくれない。この部屋だって、ホテルで一番いい部屋じゃないなんて、お父様もお母様も、私が醜くなったから、冷たくなったんでしょう。使い物にならなくなったって。いらなくなったって、そう思っているんでしょう!」
「誰もそんなことは言っていない」
「それじゃ、どうしてユベールとその女を庇うの。私は被害者なのよ!」

 私はさっき、女将さんの口から、状況証拠とも取れる発言を聞いたんだけど、それでも認めないの?
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