人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
 すると、シビルに向かってかざした手が、赤い光に包まれる。仄かに光る鮮やかな赤い光。まるで分け与えるかのように、赤い光は触れてもいないのにシビルの体を包み込む。

 初めはその光が怖かったのかもしれない。火傷を負った時の痛みを思い出したのだろう。シビルは目をギュッと瞑った。

 本来なら優しい言葉をかけるべきなのだろうが、相手が相手なだけに、したくなかった。いや、治癒魔法に集中するのに手一杯でできなかった、と言った方が正しい。

 何せ相手は虚言癖のある我が儘娘。油断してはならなかった。が、それはどうやら杞憂に終わった。

 シビルの肌は見る見るうちに治っていき、艶のある肌へと生まれ変わったかのように美しくなったのだ。ボロボロだった赤毛さえも。彼女を包む赤い光が、その幻を見せているかのような光景だった。

 口を開かなければ、可愛いお嬢さんなのに。もったいない。

 目を閉じるシビルを見ていると、ご両親が可愛がるのも無理はないと思ってしまった。
 けれど姿など、本当は関係ない。だって、火傷で酷くなったシビルの傍に、ご両親はずっと寄り添っていたのだから。

 シビルがどんな言動をしても、(たしな)める姿は愛情に満ちている。火傷を治すことだって、切に願ってくれた。
 それがどれだけ恵まれていることなのか。シビルに伝わってほしい、とそう願わずにはいられなかった。

 赤い光が消えるのと同時に、女将さんはシビルに駆け寄る。私は邪魔にならないように、そっと後ろに下がった。グッと唇を噛み締めながら。
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