人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
「僕を除け者にしないでください」
「するわけないでしょう。未来の息子に対して。それでユベールくんも、私の提案に同意してくれた、と思ってもいいのかしら」
「はい。行く当てもありませんし、今まで通りの内容で、仕事ができるのなら断る理由なんてありません」
「ふふふっ、良かったわ。それでこれからのことなんだけど――……」
「あ、あの! その前に、一つだけいいでしょうか」

 これからと聞いて、私は慌ててサビーナ先生の言葉を遮った。どうしても譲れない案件があったからだ。それは……。

「何? リゼット」
「アコルセファムに行く前に、どうしても行きたいところがあるんです」
「行きたい、ところ?」

 この時代の人間ではないリゼットに、そんなところがあるの?

 口には出されなかったが、ユベールとサビーナ先生の顔には、そう書いてあった。
 確かに昔だって、ろくに外へ出かけたこともなかった私に、行きたいところなど、あるはずもない、と思われても全然おかしくはなかった。

 けれど、これだけは譲れない。前を向くためには、過去と決別をする必要があるから。

 私は頷く代わりに目を閉じた。そして、二人を見据えて告げる。その行先を。

「ヴィクトル様の、眠る土地へ」

 今はもう、会うことが叶わない人に、会いに行きたいと願った。
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