人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
 折角サビーナ先生が、ユベールの意見を尊重して、転移魔法陣を使わなかった、というのに……。
 そう、わざわざ交通機関を使って、ここにやって来たのは、ユベールが反対したからだった。

『気軽に行けるところじゃないんだから、色々見ながら行こうよ。遠出できる機会も、これからはなかなか取れそうもないんだしね』

 本当はサビーナ先生の転移魔法陣で、気軽に行けてしまう場所なのだが……ユベールは暗に、頻繁に行ってほしくない、と言っているかのようだった。

 初めて会った頃、ヴィクトル様と間違えられるのを嫌がっていたから……。ユベールまで、ヴィクトル様を嫌うようになってしまったのかしら。もう間違えたり、比べたりしないのに。

「リゼット。私のことはいいから、先に進んで」
「でも、サビーナ先生のお陰でここまで来られたんですよ。一緒に……」
「それは貴女が望んだからよ。望んだからには、責任を持って進みなさい。リゼットなりに考えがあってここに来たのでしょう?」
「……はい」
「ほら、ユベールくんが待っているわよ」

 まるで背中を押すように、サビーナ先生は前を指差した。その方向には手を差し伸べてくるユベールの姿。
< 208 / 230 >

この作品をシェア

pagetop