人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
「大丈夫。落ち着いて、リゼット」
「そんなことはできません! ヴィクトル様に頼まれた、ということは――……」
「勿論、婚約を破棄したことは聞いたわ。さらにその先の話まで。だから私は貴女を連れ出したのよ」
「……先生のお気持ちは有り難いのですが、私はもう終わりにしたいんです。自分の人生を。ヴィクトル様だって承諾してくださいました」

 それなのに今さら……!

 (いきどお)る私の肩を、サビーナ先生は(なだ)めるように優しく叩いた。

「忘れて? 私はそのマニフィカ公爵様に言われて、貴女を連れ出したのよ」
「そう、でした……」

 だけどあの時、『一週間後に執り行おう』と言ったじゃない。あれは、その場しのぎだったというの?

「サビーナ先生、教えてください。ヴィクトル様は私を邸宅から出して、どうするおつもりなんですか? 私の望みを叶えるつもりなど、なかったということでしょうか」
「『叶えてあげたかった。どんな内容でも、リゼットの願いなら』そう仰っていたわ、マニフィカ公爵様は」
「でしたら!」
「リゼット。今、貴女に必要なのは頭を冷やすこと。だからこれを読んで、いつもの冷静な貴女に戻って」

 手紙を目の前に出された瞬間、腕が自由に動けるようになった。
 さすがは稀代の魔女と呼ばれているサビーナ先生。拘束も魔術が使われていたようだった。

 それに気づかないほど、私は頭に血が上っていたらしい。大きく深呼吸をしてから、手紙を受け取った。
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