人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
 サビーナ先生の案内の元、辿り着いたのは、例に洩れずレンガ造りの家。しかも、(つた)が少しだけ絡まっているのが特徴だった。
 鬱蒼(うっそう)とした草木に囲まれていた、ユベールの家とどこか似ている。(あん)に、そのような家を探してくれたのではないか、と思えるほどだった。

 けれどユベールが気になったのは、そこではなかったらしい。

「私たち?」
「そうよ。まさかとは思うけれど、二人だけで暮らせるとでも思っていたの? ここアコルセファムで。魔術師協会の理事を努めている私が借りた家に、未成年の貴方たちが。保護者として看過できないわ。下手したら私の立場が悪くなってしまうもの」
「でも、前の街では未成年のユベールが一人暮らしをしていました。何が違うのでしょうか」
「街の制度が違いね。それとユベールくんの一人暮らしは、ちょっと事情があるのよ」

 事情? と首を傾げると当の本人が答えてくれた。

「初めから僕一人で暮らしていたわけじゃないからさ。両親を亡くした後も、僕はあの家に居続けた。一応、一人で暮らせるだけの収入はあったし、ラシンナ商会のご主人やブリットさんの助力もあってできたことだったんだ。でも……」
「ここアコルセファムでは実績も信頼もない。あるのは私の伝手だけ。しかもリゼットは私の養女よ。二人だけで住ませるわけにはいかないの。分かって?」
「はい」

 私は納得したけれど、ユベールはというと……不満げな顔を隠そうともしていなかった。
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