人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
「でも、夜はいつものように帰るんですよね。ご自分の家に」
「えぇ。勿論、そのつもりよ。けれど、朝はこの家に戻るから……節度は慎みなさい」
「サビーナ先生……いくら何でもそれは……」

 さすがに婚前交渉はしませんよ、と言いたかったができなかった。ユベールがご機嫌な顔を向けてきたからだ。

 これで拒否するような発言をしたら、しばらくは拗ねてしまうかもしれない。
 何せ、アコルセファムにくる道中、サビーナ先生がいない時のスキンシップが多くて、ちょっと困っていたのだ。

 ヴィクトル様のお墓の前でキスをしたせいなのか。唇ではないけれど、髪や頬、額。さらに首にまで。まるで悪戯っ子のように、ユベールは私の反応を楽しんでいた。

 当の私は、というと、嬉しい気持ちと戸惑う気持ちがせめぎ合って……どうしていいのか分からず、ただただその行為を受け入れていた。
 なにせ今まで、これほどの好意を受けたことがなかったから。

 ヴィクトル様のは……正直、今でもよく分からない。愛されていると知った後でも、そうだったんですか、程度で。逆に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
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