人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
「愛……して、る?」

 目を疑う文面に、驚いて声が出た。

 そんな……ヴィクトル様が私を? いやいや、あり得ない。恐らく私が『殺して下さい』と言ったから、心にもないことを書いて、取り(つくろ)ったのだろう。
 婚約を破棄したからといっても、幼なじみのような者の死は、気分のいいものではないから。

「そうよ。マニフィカ公爵様は――……」
「先生、冗談はやめてください。なら何故、婚約破棄を? 他に好きになった令嬢がいるからでしょう?」

 使用人たちが言っていた。頻繁(ひんぱん)に出かけるのは、他に好きな相手ができたからだと。
 あんな人たちの言葉を鵜呑(うの)みにしたくはなかったが、ヴィクトル様が帰ってくる度に渡されるプレゼントが、それを物語っているようにしか見えなかった。

 形ばかりの婚約者には、プレゼントさえ与えておけばいいだろう。そんな風に感じたのだ。
 それでも喜ぶ自分に呆れながら。
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