人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
 華やかな広場を抜け、閑静(かんせい)な裏通りを歩いて街を出る。
 するとそこはもう、草や木の無法地帯。(かろ)うじて道は整備されているものの、すぐに獣道(けものみち)へと変わりそうだった。

 銀髪の少年は、躊躇(ためら)わずに足を踏み入れる。上品な服装が場違いだと訴えているように見えるが、少年は構わずに進む。
 何故ならその先に、少年の家があるからだ。

「ただいま」

 そう言っても出迎えてくれる者はいない。少年は気にせず、鞄をそっとテーブルの上に乗せた。
 中を開けて箱を取り出し、人形を外気に(さら)す。

「聞いていた通りの人形に、一番近いけれど。君がそうだったらいいな」

 少年はポケットから一つ、宝石を取り出した。赤い宝石の付いたブローチを。

「もうこれしか残っていないから、君にあげるよ」

 露店の男がそうしていたように、少年も人形にブローチを取り付ける。本来なら魔石ではないブローチには反応しない人形だったが、様子がおかしい。

 けれど、それを知らない少年は、興味深そうに人形を眺める。さらに願いを込めて、ある名前を呼んだ。

「リゼット」

 すると頑なだった人形の瞳が開き――……。

「ヴィクトル……様……?」

 かつての婚約者の名前を呟いた。
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