人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
 私を抱えたユベールは、室内を歩いて行く。
 すでにその抱え方や、彼との対比を考えれば、自ずと答えは出てくるはずなのに。けれど私はただ、ユベールの服を掴むことしかできなかった。

 覚悟を決めても、やっぱり怖いものは怖かったから。

「リゼット……」
「は、はい!」

 思わず声が上ずり、再び目をギュッと瞑る。するとユベールは、優しく私の頭を撫でてくれた。

「心の準備ができたら、目を開けて振り向いて。後ろに鏡があるから」
「ありがとうございます」

 優しく語りかけてくれるその言葉が、私の気持ちを和らげ、さらに勇気を持たせてくれた。

 焦らないでいい。自分のペースで。そうユベールは言ってくれているのだ。
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