人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
 努力しても、中級魔法がやっとだった。竜を相手にするならば、広範囲で使える上級魔法でなければならない。

 それなのに、私は――……。

「こんな役立たずを、いつまでも公爵邸に置くのは、ヴィクトル様、いえ、マニフィカ公爵様の名に傷がつきます。ですから――……」
「バルテ伯爵家に帰る、という選択肢もあるだろう」
「五歳で公爵邸にやってきた私に、居場所などあるのでしょうか。私はこの十年間、実家に帰っていないんです」

 帰れるほどの余裕があるのなら、魔法の勉強を。邸宅の外へ行く余裕があるのなら、魔法の勉強を、と勤しんできた。

 その努力が実を結べば、ヴィクトル様に婚約破棄を言い渡されることも、このような決断を迫ることもなかっただろう。
 すべて、私が不甲斐ないばかりに起きたことだった。
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