人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
 祝いをしたいと言ったユベールは、私をテーブルではなく、元いた棚のところに座らせる。それからバタバタと、室内を忙しく動き始めたのだ。

 何か手伝い、と思っても、今の私は満足に体を動かせない。ユベールの動きをただただ眺めては、ぼーっと室内を見回すことしかできなかった。
 けれどそのお陰で、ユベールの置かれた状況が、少しだけ分かったような気がした。

 先ほどまでユベールが座っていた椅子の近くには、同じ形をした椅子が他に三つ。テーブルの大きさを見ても、四人掛けだと、すぐに察しがついた。

 両親を亡くして孤児になったと言っていたけれど、そんなに日は浅くないのだろう。面倒見が良さそうな雰囲気から、孤児院にいたのかも、と思ったけれど、それは違うようだった。

「いたっ!」
「っ! ユベール!?」
「大丈夫! ちょっとぶつけただけだから」

 大したことじゃないような口調で言うユベール。けれど、声を出したいほどの痛みだと思うと、気になった。何せ、ただ座っている身。色々と頭を巡らせてしまうのだ。

 そう、せめてその傷を魔法で癒せたら、私でもユベールの役に立てるのに。
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