人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
 私は作業台に座りながら、棚をチラッと見る。金髪や茶髪の人形の他に、ぬいぐるみなどが並べられていた。
 そのどれもがユベールの手製だと思われる、可愛い洋服を身に(まと)っている。

 顧客が家に来るのかは分からないけれど、ユベールの言っていることも一理あった。

「だからって、やっていいことと悪いことがあります! 私はこれでも、人形になる前は伯爵令嬢だったんですよ。今は人形とはいえ、殿方に見られたなんて……」

 お嫁に行けない! 人形だから、すでに行くことすらできないけれど、それでもショックな出来事だった。

 私は両手で顔を覆い、頭を下に傾ける。すると、頭に付けられたボンネットがズレて、さらに私の顔を隠した。

「ご、ごめん。人形の姿だから、つい忘れてしまうんだ。リゼットが……元は人間だってことを……」

 あれ? 確かに私は「伯爵令嬢だった」とは言ったけど、人間だったとは一度も言っていない。それなのに、どうしてユベールは驚かないの?
 もしかして、その『お祖父様』の遺言に書いてあったのかしら。
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