人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
 けれどユベールはヴィクトル様ではないし、今日、初めて会った人物だ。いくら身動きが取れないからといっても、ユベールの面倒見がいいとしても、ここは我慢すべきだ。

「何? リゼット」
「いえ、何でもありません」
「そんな風には見えないけど。リゼット、僕は君のことを知らないから、ちゃんと言葉に出して言って。分からないまま、知らずに君を傷つけたくないんだ。だからこういうところは、ちゃんと言ってほしいかな。これから一緒に過ごすんだから、特にね」

 一緒に……。そうだ。今の私はユベールが居なければ何処にも行けない身。ユベールに捨てられない限り、私たちは一緒なのだ。

 言わなければ、伝わらない……言わなければ……。

「……暗いのは怖くない、です。でもここは……ここは嫌です」

 私はそう言ってユベールに向かって、両手を伸ばした。すると、よくできました、と謂わんばかりの笑顔が返ってきたばかりか、温かいぬくもりに包まれる。
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