人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
 そんな心情を知ってか知らずか。ある日ユベールから、外出の申し出があった。

「いいんですか?」
「うん。いきなりブディックに行くのはまだ危険だから、その辺を散歩しに行かない?」
「行きたいです!」

 目が覚めてからは勿論のこと、人間だった頃もあまり外出したことがなかったため、嬉しい申し出だった。いや、安易に外出できる立場じゃなかった、と言った方が正しい。

 そういえば、最後に外出したのはいつだっただろうか。
 思い出した。気晴らしにと、ヴィクトル様が誘ってくれたんだ。そう、今のユベールみたいに。

 あの時はまだ、他に好きな方がいる、という噂がなかったから、今みたいな返事をした。ヴィクトル様が心変わりをされてからは、いくら誘われても、気まずくて断っていたけれど。

「リゼット、どうしたの?」
「いえ、何でもありません。ちょっと昔のことを思い出してしまいまして」
「……そっか」

 ユベールは少しだけ寂しそうな返事をした後、私を手提げ鞄の中に入れた。
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