人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
 それから鞄の中で揺られること、数十分。
 私と共に鞄の中に入れられた、サンドイッチの匂いに思わず手が伸びそうになっていると、頭上から声をかけられた。

「リゼット。鞄を開けるから、少しだけ顔を出せる?」

 返事をしていいのか分からず、私は鞄を内側から叩いた。

「周りに人はいないから、声を出しても大丈夫だよ」
「本当、ですか?」

 恐る恐る尋ねながらも、好奇心の方が勝り、私は鞄の端に手をかける。すると、目に飛び込んできたのは、華やかな街並みだった。まるで……。

「お祭りでもあるんですか?」

 ユベールの言う通り、人の姿が見えないことをいいことに、私は率直な感想を述べた。
 何せ、出店が並んでいるのが見えたからだ。けれど朝早かったのか、屋台があるだけで、品物や呼び込みの掛け声が聞こえてこない。

 さらに街路樹の方へ視線を向けると、たくさんの装飾がされていた。
 赤や黄色、ピンクなどのハートや星。白い丸はまるで雪のようにも見える。小箱やプレゼントのような物まであると、クリスマスツリーかと勘違いしそうになるほどだった。
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