人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
「だったら尚更、リゼットにとってはそれがいいのかもしれませんね」
「いいの? マニフィカ家がそれによって……」
「過ぎたことですし、僕は当事者であって当事者じゃない。父さんたちが何故、リゼットを探さなかった理由が少しだけ分かった、程度ですよ」
「強いのね」
「いえ、弱いんです。サビーナさんの提案に、容易く承諾してしまいそうになるくらい、弱いんですよ、僕は」

 どうやって生きていこうかなって思っていた矢先、人参をぶら下げられたんだ。本来なら自分とは関係ない、と断るところなのに、今の僕は深く考えずに引き受けようとしている。

 何でもいい。僕に生きる目的を与えて、と縋っているのだ。現実を見たくないがために。がむしゃらに向き合える目的がほしい、と足掻いているに過ぎないのだ。

「っ! そんな貴方の気持ちを利用するような感じになってしまったけれど、ありがとう。承諾してくれて」
「いいえ。新たな道を示唆(しさ)してくれて、こちらこそありがとうございます。それで、どうやってリゼットを目覚めさせるんですか?」
「あぁ、そうね。リゼットは魔力量が多いから、人形になっても所持したままなの。だから、これを付けてあげて」

 サビーナさんは色とりどりの石を、僕に見せてくれた。
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