人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
 将来の公爵夫人として、礼儀作法や教養、社交術といった淑女教育を、大人しく受けていた。
 しかし、それは二の次で、リゼットに求められていたのは、学力。それも魔術に関することに特化したカリキュラムが組まれていたのだ。

 国から圧力をかけられているとはいえ、幼い子どもに対して、これはあんまりではないか。

 そう両親も思ったのか、幼い内は無理強(むりじ)いすることはなかった。そのお陰で自由時間を利用して、共に復習したり、気晴らしに遊んだりした。

『ありがとうございます、ヴィクトル様』
『今日は何をするんですか?』
『えー、そんなことをしたらダメですよ。怒られてしまいます』

 そう言いながらも、笑顔で私のやることに付き合ってくれた。
 いつも硬い表情をしているリゼットが、笑ってくれる。唯一この時間が好きだった。

「だから、私もふさわしくなろうとした。それがあんな結果になるとは、思わなかったんだ」

 私は項垂(うなだ)れるように、机に突っ伏した。己の失態を思い出したのだ。
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