月に恋する一番星【マンガシナリオ】
11、私の価値。
〇(悠月視点)教室前廊下

 着替え終わり、教室を出る悠月。
 窓の外を見ると咲奈と男Aがいる。咲奈の怯えた様子に気づき、走り出す悠月。

〇(咲奈視点に戻る)校舎裏

咲奈「あの、私、友達待ってるから……」

 男Aと視線を合わせないように俯く咲奈。

男A「なあ、話を聞いてくれよ」
咲奈「何?あんなに私のこと酷く言ったのに……」

〇(悠月視点)一階廊下

 人通りの少なくなった廊下を走る悠月。
 視線の先には窓越しの咲奈と男A。

咲奈「事あるごとに『ブス』『キモイ』って言って……!私がどれだけ……」

 呼吸を荒くする咲奈。
 ハッとして立ち止まる悠月。
 「自分の見た目に可愛いモノは釣り合わない」と言っていた咲奈を思い出し、怒りに震えながら再び歩き出す悠月。

男A「好きだったんだ!」

〇(咲奈視点に戻る)校舎裏、日が暮れかけている

咲奈「え?」
男A「だから……つい、照れ隠しであんなことを……」

咲奈(そんな……)

 戸惑う咲奈。

悠月「だったら何なの?」

 ガラッと傍にある窓が勢いよく開く。
 悠月登場。窓の枠を掴み、サッシに足を掛けて咲奈たちのいる外に降り立つ。

咲奈「悠月……!」
男A「な、なん……誰だよ!」

 男Aの問いかけを無視し、咲奈を庇うように立つ悠月。

悠月「好きだったら何なの?いじめていい理由になるとでも?」
男A「それは……」
悠月「言った方はその時だけの照れ隠しや揶揄いでしかなくても、咲奈はずっと傷ついてきたのよ?」

 怒りに震える悠月。

咲奈「悠月……」

 咲奈の手をそっと握る悠月。2人の震えが段々と収まっていく。

悠月「あなたのせいで咲奈は、必要以上に自分を卑下して自信も無くしていたの。自分たちがしたことの大きさが分かる?」

 男Aを見据える悠月。
 そこに男Bと男Cがやってくる。

男B「おい、足速いって!」
男C「どうしたんだよ?って、誰?いや……どっかで見たような……」

 再び震えだす咲奈。その手を強く握りなおす悠月。

男B「その子があの星川……?確かに言われてみれば……」
男C「あっ!思い出した。隣の子って読者モデルの子だろ。この前インスタで見た!」
悠月「なんなの、あなたたち……」

 男たちに鋭い視線を向ける悠月。

男B「へぇ、モデル?道理で可愛いわけだ。星川も変わったけど大したことないな」

 ニヤニヤと咲奈と悠月を見る男Bと男C。

男A「おい、お前ら……」
男C「そうだな。星川もその子みたいに元から綺麗だったら良かったのにな」

 ふと気づいたように男Bが口を開く。

男B「さっきチラッと聞こえたけど、『好きだった』ってやつ、可愛くなったからワンチャン狙ったんだろ?」

 男Bが男Aを見る。

咲奈(え……?)

 男Bの言葉にニヤリと口角を上げる男A。

男A「……バレた?」

 青ざめる咲奈。
 悠月は即座に反応する。

悠月「いい加減にして!あなたたち、どれだけ人を傷つけたら気が済むの?咲奈を何だと思ってるの……!」

 一瞬、たじろぐ男3人。しかしすぐに男Bは冷笑する。

男B「はっ、現実見ろよ。ブスか美人なら、美人の方が価値あるだろ」
男C「モデルやってるアンタが一番よく分かってんだろ?」
男A「星川、鏡見たことあるか?その子と比べてみろよ、自分の顔。そうしたらハッキリ自覚できるだろ、自分の価値」

 咲奈は震えつつも悠月を心配そうに見つめる。

悠月「これ以上、私の大事な人を傷つけないで!咲奈は誰かと比較されるために存在しているんじゃない!」

 声を荒げる悠月。驚いて悠月を見る咲奈。

悠月「人の価値や美しさは外見で決まるものじゃない。咲奈の優しさも、努力する姿も知らない癖に勝手なことを言わないで!」

 (3話回想)「藤堂さんはそんな人じゃないと思う」と言う咲奈
 (5話回想)ヘアメイクを急激に上達させる咲奈
 (9話回想)演劇に向き合う咲奈

 男3人に毅然と立ち向かう悠月の姿が、幼い頃アニメで見た少女戦士の姿に重なる。*1話冒頭

咲奈モノ『キラキラしてる……』

〇4話回想、カフェ

咲奈「他にキラキラする秘訣ない?悠月みたいな生き方、憧れる」
悠月「生き方……自分軸を持って、自分の意思を曲げないこと……とか」
咲奈「自分軸?」
悠月「世間や他の誰かが決めた“正しい”じゃなくて、自分が良いと思うことに従って決めること」
(回想終了)

〇再び、校舎裏、日は落ちて完全に夜

男B「内面がいくら美しくても、見た目が良くなきゃ誰も見向きはしねえよ」
男C「そんなの、価値がないのと一緒じゃねえか」

 男3人が冷たく笑う。
 それまで震えて黙っていた咲奈が口を開く。

咲奈「私は……悠月のおかげで変われた。今の自分も、昔から頑張ってきた自分も好きだって思える。私の価値は私が決める。あんたたちや、他の誰かに決められるものじゃない!」

 ハッキリと言い切った咲奈に男3人は気まずそうにお互いを見る。

アナウンス「これより、後夜祭スタートです!点火式を始めます。生徒会長、副会長は本部まで——」

悠月「行こう、咲奈」
咲奈「うん」

 アナウンスの声に突き動かされ、手を繋いだまま男3人の間をすり抜ける2人。
 そこで悠月が静止し、振り返る。

悠月「あなたたちみたいな人を外見で判断する人のせいで咲奈みたいな人が傷つくの。もう二度と咲奈の前に姿を現さないで」
 
 そう言い、手を繋いだまま走り出す2人。
 校庭にはキャンプファイヤーが点火され、沢山の生徒たちが取り囲んでいる。
 朝礼台で挨拶をする美鈴とその彼氏。*生徒会長、副会長

美鈴「文化祭、どうでしたかー!」
美鈴の彼氏「楽しめましたかー!?」
美鈴「残すところ後夜祭のみとなりましたが、安全に、怪我無く——」

 挨拶の声が響く中走る2人は柚、花火、優海、泉水、莉佳、大地、陽向らと遭遇しながらも校舎内に入っていく。

〇学校、教室、夜

 誰もいない教室。演劇の背景や小道具が雑多に置かれている。
 手を繋いだまま教室に入り、窓からキャンプファイヤーを眺める2人。
 咲奈の目に文化祭のジンクスをしている男女が目に留まる。

〇(9話回想)教室

美鈴「そ、そうだ、好きピといえば文化祭のジンクスあるじゃん?」
柚「なにそれー?」
花火「知ってる!後夜祭で同じ場所で夜空の写真を撮ると、永遠の愛で結ばれるってやつ!」
(回想終了)

〇再び、教室、夜

咲奈「わ~綺麗な星!月も出てる……」*少し棒読み

 スマホを夜空に向け、シャッターを切る咲奈。
 そのまま撮った写真を見て俯く。

咲奈(流石に誘えないよ……)

 カシャ、というシャッター音が鳴り響く。
 咲奈が顔を上げると、夜空の写真を撮っている悠月。*手は繋がれたまま
 驚く咲奈、ゴクリとツバを飲みこむ。悠月は撮った写真を確認せずにポケットに仕舞う。

咲奈「悠月。なんで助けてくれたの?……なんで、手、繋いだままなの」

咲奈(私は離すつもりなんてないけど……悠月も?)

 繋がれた手を引き寄せる咲奈。向かい合う2人。

咲奈「それから……『大事な人』って、何?」

 一瞬目を逸らし、再び目を合わせる悠月。手を引き寄せ、咲奈を抱きしめる悠月

悠月「……そのままの意味、だよ。さっき大丈夫だった?」

 ハグしたまま話す2人。

咲奈「大丈夫だよ。悠月がいてくれたから」
悠月「そう。……ちゃんと言っておくから聞いて」
咲奈「う、うん」
悠月「咲奈は可愛いよ。メイクとか関係なく」
 
 目を見開く咲奈。

咲奈モノ『そんな風に言われるの、初めて』

 ドクドクと心臓の音が聞こえる。

咲奈モノ『こんなに胸が高鳴って苦しいのも、初めて』

 ふと気づいたように目を見開く咲奈。

咲奈(これは、悠月の鼓動……?)

咲奈「ねえ悠月。どうしてこんなにドキドキするのかな……」

 身体を少し離して悠月を見つめる咲奈。悠月の顔は真っ赤に火照っている。

悠月「それは……」

 自然と近づく2人の顔。*背伸びする咲奈。
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