月に恋する一番星【マンガシナリオ】
6、あたたかい。
〇咲奈の夢の中

咲奈(あれ……ここ、どこ?)

 自分の両手を見る咲奈。視界が段々と鮮明になっていき、目の前にピアノが現れる。ピアノ椅子に座る咲奈。

咲奈(もう弾かなくなっちゃったなぁ……)

 視界暗転

〇(回想)小学校、音楽室

 音楽室のピアノを弾く咲奈。
 そこに男子たちが冷やかしにやって来る。

小学生男子A「ブスがピアノなんて生意気なんだよ!」
小学生男子B「似合わねー」
小学生男子C「可愛い子ぶるなよー」

 咲奈を指さして笑う男子複数
(回想終了)

〇再び、咲奈の夢の中

 ピアノを目の前に両手が震える咲奈。呼吸も荒くなる。
 途端に良い匂いに包まれる。後ろから細い手が伸び、咲奈の手を包み込む。
 そのまま抱きしめられる咲奈。咲奈の肩に、綺麗な黒髪が垂れる。

咲奈(悠月……?)

 後ろを見る咲奈。優しい顔をして咲奈を抱きしめる悠月。

悠月「可愛いよ、咲奈……」

咲奈モノ『あったかい……』

〇咲奈・家、咲奈の部屋

 飛び起きる咲奈。顔を真っ赤にして肩で息をする。夢の中の悠月を反芻する。

咲奈モノ『な、な、なに、今の夢——!?』

 ハッとして時間を確認する咲奈。

咲奈(早く準備しないと——!)

 ベッドから出て顔をペチペチと叩く咲奈。

咲奈モノ『今日は待ちに待った、悠月の読モ撮影会の見学なんだから——!』

〇撮影現場、控え室

 『控え室』と書かれたドア前にいる咲奈、悠月。その傍に雑誌『LILY』の担当者*スーツを着た若い女性

担当者「呼ばれるまで、ここで待っててね」

 返事をして中に入る2人。
 控室の中は複数の長机が口の字形式で並べられ、全身鏡が三枚立てかけてある。机の上には、複数の鞄が置いてあるが、他に人はいない。

咲奈「あれ?……誰かの荷物」
悠月「他の読モの子たちの。今撮影に行ってるんだと思う。私の番は一番最後だから」
 空いている椅子に座る2人。
咲奈「今日はどういう撮影なの?」
悠月「人気スタイリストJunnaと人気ヘアメイクアップアーティスト花房のコラボ企画。読モ一人ひとりの世界観を元に、2人が衣装や小物、ヘアメイクを施す大型のもの」

 テーマは「自由」。専属モデルの撮影の場合は、どんな写真を撮るか入念な打ち合わせがあるが、読者モデルのその日のコンディションと発想に委ねる。その分、どれだけ世界観の構想がハッキリしているかが写真の出来を左右する

咲奈「悠月はどんな世界観にするの?」
悠月「いつもの私らしい、クールでモノトーンの、洗練された都会的な雰囲気を出そうと思ってる」

〇(回想)
 1話冒頭、おしゃれな街並みで撮影される悠月。洗練された雰囲気の悠月のSNS。ティーン雑誌『LILY』に載る悠月。
(回想終了)

〇撮影現場、控室

 慌ただしく控室に入って来る先ほどの担当者。

担当者「Yuzukiごめん!杏珠の世界観と被るかもしれない……」

咲奈(……え!?)

悠月「そうですか……。分かりました」

咲奈モノ『人気読者モデル、杏珠。その親しみやすい雰囲気が読者に支持を得ていて、悠月と並んで根強い人気がある』

 雑誌の半ページに載る『杏珠の!オールプチプラ毎日メイク』のコーナー。『女子大生杏珠の、リアル1週間コーデ!』のコーナー。

悠月「とりあえず、スタジオの方に行こう」

〇撮影現場、撮影スタジオ

 撮影する杏珠。雰囲気はいつもの悠月と丸被り。その様子を見る咲奈と悠月。

Junna「被っちゃったねぇ、Yuzukiちゃん」

 声を掛けるスタイリストJunna。*シンプルな服装の女性、金髪でポニーテール
悠月「Junnaさん、お疲れ様です」

 挨拶する悠月に続き、会釈する咲奈。
 咲奈に気づくJunna。

Junna「隣の子が例のお友達?向上心が高くて、正しい努力ができるすごい子って」

咲奈(え……?)

悠月「ちょ、Junnaさん……」

 顔を赤らめる悠月。気にせず話を続けるJunna。

Junna「そのメイクは……桜井アリサ意識してるね?」
咲奈「わ、分かるんですか?」
Junna「勿論よ。……そうだ、Yuzukiの世界観について何か提案ない?この際、今までのYuzukiとはガラッと変わった雰囲気でも良いと思うの」

咲奈(私が提案なんて……)

 助けを求めるように悠月を見る咲奈。悠月は強く頷く。

咲奈「私は可愛いものが好きで……だから可愛い系しか分かりません。でも、自信はあります……!」
Junna「……よし、倉庫行きましょうか」

〇撮影現場、倉庫

 色々な小物や衣装が並べてある。

Junna「可愛い系なら、ここに纏めてあるわ。どんな感じ?」

 造花、ぬいぐるみなどのいくつか小物を手に取る咲奈。何着かの衣装も手に取る。

Junna「……そういう感じね、了解。Yuzukiどう?」
悠月「これで行きます」

 即答する悠月。
 
咲奈「良いの?いつもの悠月の世界観とは全然違うけど……」
悠月「世界観に合わせて表情やポーズを作るのも、モデルだから」

 はっきり頷く悠月に感心したように頷くJunna。

〇撮影現場、スタジオ

 スタッフ数名がJunnaの指示の元でセットや小物、背景などを配置していく。
 スタジオ傍のメイク室で悠月がメイクアップアーティスト花房にメイクされている。*全身黒、男性、短い髪に前髪を全て上げてピンで留めている。
 担当者と話し合いつつ撮影現場のセットや小物、掛けてある衣装を見ながら、アイシャドウを塗る。机には沢山のメイク道具*全てデパコス。
 悠月の後方にある椅子に座る咲奈。
 そこに撮影監督がやって来る。*シンプルな服装、50歳くらいの男性、眼鏡をしている

撮影監督「いやーそれにしてもYuzukiがこの感じやるとはねー」
花房「ほんとにびっくりだ」

 Junnaもメイク室を覗きにやって来る。

Junna「Yuzukiのお友達……咲奈ちゃんのセンス、結構すごいわよ」
撮影監督「あ、もしかして君?悠月が激推ししてきた、素直で可愛い子って」

咲奈(えっ)

悠月「な、監督……!」
花房「はい、動かないでー」

 振り返ろうとする悠月。しかし花房に制止されてしまう。

咲奈「さっきも思ったけど、悠月、私のことめっちゃ褒めてる……?」
悠月「……なに。事実なんだから良いでしょ……」

 鏡越しに顔を赤くする悠月。
 考え込む撮影監督。

撮影監督「咲奈さんも一緒に撮影しないかい?」

咲奈モノ『えっ!?』

 目を丸くする咲奈。

Junna「良いじゃない!合いそうな衣装、もう1着用意してくるわ」

 メイク室から意気揚々と出ていくJunna。

花房「世界観提案してそれだけってのも寂しいよね」

咲奈(でも……)

咲奈「良いんですか?私、一般人なのに……」

 担当者の方に視線を向ける咲奈。

担当者「良いわ。読者モデルは専属の子と違って流動的なの。だからこういう自由な企画が出来るのよ」
撮影監督「……何より、君といるとYuzukiがより良い顔をしそうだ」

咲奈モノ『良い顔——?』
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