初恋が実る瞬間、異世界召喚に邪魔された私。聖女なんて断固拒否させていただきます!〜魔王な幼馴染の溺愛は、世界を越えるようです〜
(……はあ〜〜。それにしても困ったなぁ……)
私は声に出さないように、心の中で盛大なため息を吐くと、机の上に上半身をうつ伏せにして、だらしなく寝そべった。
神殿から出ない限り、何をしていても良いと言われた私は、お言葉に甘えて今日も図書館にやって来ている。
神殿の中を見て周りたいと思っても、この神殿はとにかく広い。
窓から見える景色が、丸っと神殿の敷地だと聞いた時は、あまりの広さに驚いたほど。
そんなに広いところに出れば、方向音痴な私が迷子になるのは目に見えている。
だったらこの世界にもうちょっと慣れてから神殿を歩き回ろう、と思ったのだ。
私は身体をのそのそと起こすと、カップにお茶を注いで口に含む。
お茶を飲んでみると、身体に水分が行き渡っていく感じがして、自分の喉が渇いていたんだと気付く。
「……ふう」
お茶を飲んだからか、ずっと速かった胸の動悸が、ようやく落ち着いてくれた。
私は机の上の本を一冊手に取った。
「さあ、昨日の続きを読もっと」
そして、ワザと大きな声で宣言した。
──誰もここにはいないのに、誰かに聞かせるように。
どうしてこんなことをしているかというと、フィテーラの件で感じた違和感が疑惑となって、ブレスレットを見たオリヴェルさんの言葉で確信したから。
ここの会話──もしくは私の声を、オリヴェルさんもしくは他の誰かが聞いているんじゃないか、と。
元の世界でいう盗聴器のようなものが、この世界でも存在するのかも。
……それとも、そんな魔法があるのかもしれない。
もし私の予想通りなら、これからの発言は気をつける必要がある。
でも私は昨日、絶対に元の世界に帰る、と口に出してしまった。
その言葉すら、聞かれてしまっていたら──。