引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末

13.着れないドレス

 一体どんな顔をして会えばいいのだろう。
 シルヴィオは包み隠さず自分を見せてくれた。それなのに、リリアーナにはそれができない。自分がどんな人間かを彼に知られたくなかった。弱くて狡い自分自身。知られて、失望されるのが嫌だった。

 幸いにしてと言うべきか、彼の公務が忙しくなり夜会までに顔を合わせる機会はなかった。リリアーナは自室に籠っていつもよりも鬱々と、謝罪の言葉を考えて過ごした。

 それが届いたのは、夜会の二日前だった。

「お姉様!! リリィお姉様」
 妹のノックの音がする。ミレーナは元から明るい質だが、いつにも増して弾むような声だった。

 リリアーナがしぶしぶ扉を開けて階段を下りてきたところで、ミレーナはまるで自分の手柄のように微笑んだ。

「麗しの王太子殿下からよ」

 それは、今までリリアーナが見た中で一番と呼べるほどのドレスだった。

「きれい」

 ふわりと広がる、幾重にも重なるチュール。光が当たると、それは虹の欠片でも散りばめたかのようにきらきらと輝いた。まるで妖精の羽根のよう。

 そして、その根底にあるのは何よりも美しい銀。

 一目見ただけで分かった。
 これは、シルヴィオの色だ。

「次の夜会に着てほしいって手紙が入ってたわ。お姉様、やったじゃない」
 示された手紙には、確かに彼らしい細やかな筆致でそう書かれていた。会えるのを楽しみにしている、とも。思えば王宮の侍女たちに採寸されたことがあった。その時は何のためにそうするのだろうと思ったが、この為だったのか。

 あの時、シルヴィオは採寸が終わるまでずっと、部屋の外でリリアーナを待っていた。

 そっとドレスに触れてみる。胸元から袖にかけては繊細な花の刺繍が施されている。いつから彼は準備をしていたのだろう。どんな思いで彼はこのドレスを選んだのだろう。

 こんなもの、着られるわけがない。

「お姉様……?」
 どうしたって釣り合わない。こんな美しいもの、リリアーナには相応しくない。

 最初から、全部、間違えていたのに。

 何よりも美しいドレスを前にリリアーナは途方に暮れた。

 彼は一見何を考えているのか分かりにくい人だが、決して“氷”ではない。もっとやわらかで、ちゃんとあたたかい人だ。
 それを知ってしまったらもう、知らなかったところには戻れないのだ。
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