引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末

19.彼の見立て

「リリアーナ、入っていいか」

 シルヴィオの声がする。リリアーナは鏡の中の自分ともう一度見つめ合ってから返事をした。

「どうぞ」

 現れた彼は今夜も皆の視線を攫って行く完璧な王太子だった。正装が本当によく似合う。今からこの隣に立つのかと思うとやはり気遅れすることは否めないけれど。

 青い瞳はリリアーナの姿を認めると、満足げに輝いた。
「思っていた以上だ」

 今日は夜会が始まる少し前に馬車が迎えに来た。ミレーナは初めて目にする王家の紋章の入った馬車にきゃーきゃーと騒ぎ、「いってらっしゃい」と笑顔でひらひらと手を振ってくれた。

 そうして辿り着いた先で、王宮の侍女たちに総動員で磨き上げられた。なんとかこれでリリアーナも一人前の姫君である。侯爵家の侍女も優秀だが、やはり王宮のそれとは比べものにならない。

「シルヴィオ様が選んでくださったからです」

 身に纏うのならばこれしかない。そう心には決めてはいた。
 似合うわけがないと思っていたのに、その実、袖を通してみたらこのドレスはびっくりするほど肌に合った。

「君は色がやわらかいからな。強すぎる色を着たら良さが消えてしまう。こういうものの方が似合うと思ったんだ」

 やはり彼の見立ては完璧だった。銀の淡い輝きがまるでリリアーナを守るように取り囲む。

「本当にありがとうございます」
「なんてことはない。人より少し、こういうものを見る回数が多いだけだ」

 結い上げた髪が乱れないようにやさしく、シルヴィオが髪を撫でた。

「なら行こうか」
「はい」

 彼の肘にそっと手を掛ける。導かれるがままにゆっくりとリリアーナは歩く。足を進める度に緊張で手が震えた。この長い廊下の先にあるものを、どうしたって意識してしまう。

 伝わる震えに、彼はきっと気づいているだろう。

「ずっと考えていたんだ」

 静かにシルヴィオが言った。その横顔はいつもと変わらぬ涼やかなものだ。
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