引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末

5.妹というもの

「ねえ、リリィ姉様。どうだった? 間近で見る“氷の王太子”殿下は!!」
 屋敷に帰りついてから、開口一番、妹のミレーナが尋ねてきたのはそれだった。

「どうって……それはそれはお美しかったわよ」
 まともに顔が見られないぐらいには本物の美形だった。

「どうして断っちゃうかなー。わたしのお義兄(にい)様がシルヴィオ殿下になるところだったのになー」
「それがね……」

 リリアーナはロジータの乱入について話をした。先代の王太子妃候補については心にしまっておくことにした。

 ミレーナは「さすがロジータ殿下ね。赤い薔薇はひと味違うって感じ」と頷く。

「でもそうなるとリリィ姉様も断りづらいわね」
「あら、どうして?」
 次に会う時は絶対に断ろうと決めていたのに。

「だって、断ったらお姉様もシルヴィオ殿下のことを『ちょっと身分が高くて顔がいいだけの男』って思ってるみたいにならない?」

「それは……そうかもしれないわね」
 ただただ引きこもりなので断るだけなのだが、そう思われてしまうのはよくない。シルヴィオはちゃんと立派に政務に取り組む王太子だ。
 顔がいいことは、まあそうだとは思うけれど。

 どうしてリリアーナが引きこもりなのかを話せば、聡明な彼はきっと理解してくれるだろう。けれど、それを話すのは気が引けた。同情されるのもあまりにも自分が惨めで嫌だった。

「面倒なことになったわ……」
「ね、やっぱり王太子妃になっちゃわない?」
「あなた、人のことだと思って」

 どこの世界も妹とはこういうものなのかもしれないなと、あの眩いばかりの金髪を思い出しながらリリアーナはくすりと笑った。
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