開発部の門野さんの愛はとにかく重い。
(っていうか、いつも思うけれどシステム開発部遠くない? もっと近くにしてよ……)

 経理部はフロアの端にある。そして、システム開発部は逆の端っこにある。……台車を押していくと、大層な距離だ。

 そう思いつつ私はやっとの思いでシステム開発部が使っている部屋の前にたどり着く。若干大きめにノックすれば、中から「誰」という端的な問いかけが聞こえてきた。

「重吉です。入ってもよろしいでしょうか?」

 大きめの声で尋ねれば、室内から「別にいいけれど」という素っ気ない声が返ってくる。

 私は扉を大きく開いて、台車を押しながら入室した。

「門野さん。お届け物です!」

 これまた大きな声でそう言えば、デスクチェアがぐるりと回る。こちらを見つめる男の人は、まさに極上の容姿を持っていた。

「そうか。そこに積んでおいて。それにしても、キミは配達員かなにか?」
「それは私だって聞きたいですね。私は一社員で、経理部所属なんですけれど」
「まぁ、まとめて持ってこられるのはいいことだけれど。……一々応対するのは面倒だからな」

 ……話が、話が通じてない!

 この人と会話をすると、いつもそうだ。苛立ちが募っていって、ろくな結果にならない。

(門野 綾人(あやと)。二十八歳。システム開発部の若きエリートイケメン。ただし、その性格は――)

 ――恐ろしいほどに、偏屈。

 これが小島ホールディングス本社での常識。

 生まれたときにもらう経験値みたいなものを、全部仕事に割り振ったのかっていうほどの人。

 人付き合いとうるさいことをなによりも嫌う彼は、どうしてか――すべての届け物を私にさせるのだ。

 ――ただの平凡な一社員に。
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