開発部の門野さんの愛はとにかく重い。

「今日は何処行く？　っていうか、なに食べる？」
「うーん、私はオムライスが食べたいかなぁ」
「あっ、じゃあ、この近くに美味しい洋食屋さんが――」

　なんてことない風に李未ちゃんと話しながら歩いていると、門野さんのことを忘れられる。

　このときが、私にとって一番の休息だった。……社内にいると、いつ何時門野さん関連で呼び出されるかわからないんだもの。

（もうずっとこの平和が続いてほしい……）

　心の底からそう願っていると、ふと李未ちゃんが「ねぇねぇ」と言って私の服の袖を引っ張った。

　ハッとして現実に戻ってきて彼女に視線を向けると、彼女は何処か別のところを見ている。

「あれって、門野さんじゃない？」
「……え」

　が、李未ちゃんの言葉を聞いて、私の顔からサーっと血の気が引いていく。

　見つかりたくない。見つかったら、どんな無茶ぶりをされるのか……。

　そう思い、咄嗟に李未ちゃんの後ろに隠れる。すると、李未ちゃんに「大丈夫でしょ」と言われた。

「なんか、女の人といるみたいだし」
「女の人……？」

　そっと李未ちゃんの後ろから顔を出すと、確かに門野さんの側には派手な女性がいた。

　……っていうか、あの人。

「社長の娘さんじゃない……？」