【私は今日も癒やしの『喫茶MOON』に通う】

第12話 チョコちゃんの思いを俺に聞かせて?

 克己さんは私の横で何も言わずに、じっと座っていた。
 私は目線を下に落として自分の膝に置いた手を見ていた。

「支離滅裂でも良いよ?」
「えっ?」
「思ったこと浮かんだことを、ただ話すだけで良いから。話をしたらスッキリするかもしれないだろ? 話の筋道とか俺は気にしないから」
 克己さんの口調は優しかった。まるで何年も前からの友達みたいに。
 きっとお兄ちゃんがいたら、こんな感じなんだ。
 私は克己さんがそばに居てくれるのが嬉しくて、また涙が溢れてきて慌てた。
 弱ってる時に誰かが寄り添ってくれる。
 とても嬉しい。
 
 友達の瑠衣に愚痴をこぼす時もあった。けれど、今は瑠衣も大変な時期だ。あまり頼らないようにと思っていたから。

 こんな風に言ってくれる人がいる。
 私は克己さんに話してみようと思えた。

「えっと……」
「チョコちゃんの気持ちをさ、なんでもいいよ。俺に聞かせて」

 私は克己さんの優しい声と瞳に、心の固まった物が溶けていく気がする。

「昨日、会社で呆《あき》れられたんです。仕事が遅いって」
「うん」
「あと……失敗も多くて。何度も怒られたり…」
「うん」

 私はポツリポツリと話してた。
 正社員になれない事や派遣では思うように収入が増えない事や、両親が亡くなった時の話……。
 二年前には長く付き合った彼と別れた話。
 仕事に活かせるものが何も自分には無くて不安だとか……。

 克己さんは「うん、うん」と相槌を打って聞いてくれた。
 ただ聞いてくれる。
 どうしたら良いとか、それは違うとか、自分の意見を言うことなく、じっと私の言うことに耳を傾けてくれた。

 どれぐらい経ったんだろうか。
 ゲートボールをしていたお年寄り達はもういなくなっていた。
 代わりに野球やサッカーをする子供たちや親子連れがやって来て、公園は笑い声や掛け声なんかで賑やかになっていた。

「そうか大変だったね。まだ辛いんだよな。俺は聞いてあげることしか出来ないけど、いつでも聞くよ? チョコちゃん」
「克己さん、ありがとう」
 私は急に恥ずかしくなっていた。
 すごいベラベラと色んなことを話してしまった。

 克己さんはベンチから立ち上がって「チョコちゃん!」と大きな声で私を呼んだ。
「あっ…はい?」
「喉乾かない?」
「ええ、はい」
 克己さんが私の肩をポンポンと励ますようにそっと叩いた。

「うちに行こうよ。そうそう、それからさ、ちょうど昨日作った新メニューの試作品があって。チョコちゃんにも食べてもらいたいんだ」
「えっ? 私なんかに?」
「常連さんに食べてもらいたいんだ。感想を聞きたい」
「私なんて」
「チョコちゃんが良いんだ。よしっ。行こう!」
 克己さんはベンチに座る私の両手を握って引っ張って、立ち上がった私の背中をぽんっと押した。

「マルさんが来るまでで良いから。俺と貴教に付き合って」
 キョトンとする私に克己さんはふわあっと笑ってた。


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