【私は今日も癒やしの『喫茶MOON』に通う】

第15話 マルさんと相席

 貴教さんがすっとマルさんの席に行き、にこやかな笑顔を向けた。
「マルさん、相席をお願いしても良いですか?」
「良いですよ」

 貴教さんがお水とおしぼりをテーブルに置いた。

 私はさあっと顔が赤くなってるだろう熱さを頬に感じてるし、体がカチコチになる。

「チョコちゃん、こっちだよ」
 貴教さんが笑顔を私に向けて、おいでおいでをしている。

 たっ…貴教さん!
 無理です。
 私にマルさんと同じテーブルに着くなんて、ハードルが高すぎます。

 私の慌てた顔を見て貴教さんは苦笑いをして、私の横まで来てくれた。

「さあ、勇気を出して。せっかくのチャンスだよ、チョコちゃん」
「はっ……はい」

 マルさんや周りの人に聞こえないようにか、小さな声で貴教さんは気を遣って話しかけてくれて、私は蚊の鳴くような消え入りそうな声で返事をした。

 貴教さんは「頑張って」と言って、お客さんに呼ばれたから注文を取りに行ってしまった。
 あとは自分でなんとかしなくちゃ。
 ゆっくりとマルさんと同じテーブルに着く。

 緊張する〜。

「こんにちは」
 マルさんは素敵な笑顔だった。
 茶色い眼鏡の奥の少し細いキリッとした目が、私を優しく見つめてる。
「こ、こ、こんにちはっ」
 しまった。声が裏返ってしまった。
 恥ずかしい。
「あっあの、すいません。ご一緒の席にお邪魔しちゃって」
 私は誤魔化すように言葉を慌てて、重ねた。

「良いんだよ。《《チョコ》》ちゃん」
 えっ? 今、マルさんがチョコちゃんって呼んでくれた?
 私は感激して、この前貰った四つ葉のクローバー入りの栞のお礼を言おうと思ったときだった。

「携帯電話、鳴ってるみたいだよ」
「えっ?」
「聞き間違いじゃなかったら、何度か鳴ってるみたいだ」

 たしかに私のマナーモードにした携帯電話がバイブの音を立てていた。

 緊張してて気づかなかった。

 バッグから慌てて取り出すと、トキさんからだった。

「東雲菓子店のトキさんからです。後で掛け直します」
「うーん……」
 マルさんは顎に手をやり、考えてる風だった。

「急用かもしれないよ。念のためすぐ掛け直してみたら?」
 マルさんは少し厳しい顔をしていた。
「はい?」
 私はマルさんがそんな表情をするのか分からず、数秒呆気に取られていた。
「普段から電話がくるのかな? お年寄りから何度も電話が掛かって来てるのが、どうにも気になってね」

 マルさんがそう話す途中で、今度はメールが入って来た。
 私は慌ててメールを開くと。

「あっ!」

【ちょこちゃんたすけて】

 トキさんからのメールだった。





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