【私は今日も癒やしの『喫茶MOON』に通う】

第30話 喫茶『MOON』で元彼とご飯を食べるチョコちゃん

 なんで?
 ねえ、なんで、こうなっちゃったんだろう!
 私のお気に入りの喫茶『MOON』に蓮都《れんと》と向かい合って座って、なぜ晩御飯を食べようとしているの? 私〜!

「雰囲気の良い喫茶店だな。どっかお薦《すす》めの店がないか柏木に聞いたらさ、教えてくれた」

(瑠衣のやつ〜)
 私は瑠衣が喫茶『MOON』をなぜ教えてしまったのか、恨みたくなった。

 押しに弱い私も悪いんだけれど。
 蓮都《れんと》を押しのけ拒絶しなくちゃいけないのに、私はこの人の天然なところにどうも弱いらしい。

「いらっしゃい、チョコちゃん」

 夕方なので克己さんがお店に出ていた。
 カッターシャツにベストを着て、ビシッと決まっている。
 にこやかに微笑みながら、メニューとお冷やとおしぼりをテーブルに置いて、一礼してキッチンの方に戻る。克己さんがチラッと蓮都を見た気がした。

「かっこいいね。あの店員」
「マスターなんだよ」

 蓮都が大声で話すから、ちょっと恥ずかしくなる。
 私はどうにか早く食事を済ませて帰ろうと思った。
 店内にかかるミュージックが耳に届かないぐらい私は考え込んでいた。

「千代子、千代子ってば! 千代子はなに食べる?」
「私? ああ、卵サンドとロイヤルミルクティーにする」
「じゃあ、俺はグラタンとミートスパゲッティとチーズケーキ、それとブレンドコーヒーにしようっと。すいませーん! すいませーん!」

 大声で克己さんに向かって呼ぶ蓮都。
 ああ、恥ずかしいよ。
 それに忘れてたけど、蓮都は細いくせに大食いだったんだ。
 私はむずむずと居心地の悪い思いで座っていた。悲しいかな。なんでお気に入りのお店で元カレとご飯を食べなきゃならんのだ。

 克己さんにどう見られているんだろう。
 私が喫茶『MOON』に男の人を連れて来るのなんて初めて。

 そもそも、瑠衣以外は連れて来たことなんてなかったんだった。
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