【私は今日も癒やしの『喫茶MOON』に通う】
第31話 わざわざ克己さんに言わないでよ
蓮都《れんと》はニコニコしながら、がっついたりせずに優雅な所作で、次々と喫茶『MOON』の美味しい料理を平らげていく。
私の顔を見ては蓮都は顔を綻《ほころ》ばせて、そのあと幸せそうな顔でチーズケーキを食べだした。
こうして蓮都といるとなぜか数年も会っていなかった気がしない。
蓮都は勝手な人だ。
天然だからと、片付けるには重すぎる現実で私は傷ついたはずだ。
突然、海外旅行に一人で行きだして。
向こうで知り合った日本人と結婚してしまった。
別れたわけでもないのに、一通の海を渡って来た手紙で結婚を知らされた私。
それまで、いつまでも阿保《あほ》みたいに待っていた。
純粋に蓮都を待っていた。
毎日想いを募らせて、蓮都の帰りを待っていた。
手紙にはこう書かれていた。
【結婚しますが、千代子のことは好きなままです。
でも、奥さんになる人のことも大好きです。放っておけない人です。
千代子は強いので、一人でも大丈夫だよね。
別れたのではなく、俺の立場を友達に戻して下さい。千代子を失いたくはありません。千代子とは仲良しでいたいです。】
身勝手だ。
この人は優しいくせになんも分かっていない。
離婚して日本に戻って来て、平気な顔でニコニコと私の前にいる蓮都はすごく鈍い人なんだ。
人の本当の気持ちに鈍い人なんだ。
「千代子。食べ終わったら、千代子の家に行っていい?」
「なっ、何言ってんの? 良いわけないでしょう?」
蓮都は悪気がないんだ。
まるで悪気がないんだ。
どうして離婚したのかは分からないが、たぶんこんなところが原因なんじゃないのだろうか?
無邪気すぎる。
人に頼られれば助けてしまう。
周りの人を惹きつける魅力があるから好かれるし、年上からは可愛がられる。
当然女の子からもモテた。
なんでか私のことを気に入って蓮都の彼女になったけれど、気まぐれだったんでしょ?
喫茶『MOON』のマスターの克己さんが私にダージリンティーを持ってきてくれた時に、蓮都がにこやかに彼に言ってしまった。
「俺と千代子は付き合っていたんです。俺はまだ千代子が好きです」
えっ?
え――――っ!?
私は赤面して、すぐに血の気が引いて青ざめた。
「やめて蓮都」
わざわざ克己さんに言わないでよ。
なんて事を言うんだ。
「そうですか。お二人は以前お付き合いをされていたんですね。
……それをなぜ、俺に言うんです?」
「千代子の友達かな? と思いましたから」
なぜか克己さんは顔は笑っていたのに、目の奥は笑ってはいなかった。
じっと蓮都と目を合わせたまま。
「じゃあ、すいません。帰りますんで、お会計をお願いします」
「はい、お会計ですね。かしこまりました」
克己さんがレジの方に消えていく。
私は焦って蓮都に訴えた。
「ちょっ、ちょっと……。私は帰らないよ?」
蓮都はカップを持つ私の手を握ってきた。
慌てて私はふりほどく。
「話がしたいんだ。ただそれだけだよ」
恥ずかしい。恥ずかしいよ。
克己さんの前で、そういうことしないでくれるかな!
私は蓮都のわがままさにもやっぱり振り回されていた。
私の顔を見ては蓮都は顔を綻《ほころ》ばせて、そのあと幸せそうな顔でチーズケーキを食べだした。
こうして蓮都といるとなぜか数年も会っていなかった気がしない。
蓮都は勝手な人だ。
天然だからと、片付けるには重すぎる現実で私は傷ついたはずだ。
突然、海外旅行に一人で行きだして。
向こうで知り合った日本人と結婚してしまった。
別れたわけでもないのに、一通の海を渡って来た手紙で結婚を知らされた私。
それまで、いつまでも阿保《あほ》みたいに待っていた。
純粋に蓮都を待っていた。
毎日想いを募らせて、蓮都の帰りを待っていた。
手紙にはこう書かれていた。
【結婚しますが、千代子のことは好きなままです。
でも、奥さんになる人のことも大好きです。放っておけない人です。
千代子は強いので、一人でも大丈夫だよね。
別れたのではなく、俺の立場を友達に戻して下さい。千代子を失いたくはありません。千代子とは仲良しでいたいです。】
身勝手だ。
この人は優しいくせになんも分かっていない。
離婚して日本に戻って来て、平気な顔でニコニコと私の前にいる蓮都はすごく鈍い人なんだ。
人の本当の気持ちに鈍い人なんだ。
「千代子。食べ終わったら、千代子の家に行っていい?」
「なっ、何言ってんの? 良いわけないでしょう?」
蓮都は悪気がないんだ。
まるで悪気がないんだ。
どうして離婚したのかは分からないが、たぶんこんなところが原因なんじゃないのだろうか?
無邪気すぎる。
人に頼られれば助けてしまう。
周りの人を惹きつける魅力があるから好かれるし、年上からは可愛がられる。
当然女の子からもモテた。
なんでか私のことを気に入って蓮都の彼女になったけれど、気まぐれだったんでしょ?
喫茶『MOON』のマスターの克己さんが私にダージリンティーを持ってきてくれた時に、蓮都がにこやかに彼に言ってしまった。
「俺と千代子は付き合っていたんです。俺はまだ千代子が好きです」
えっ?
え――――っ!?
私は赤面して、すぐに血の気が引いて青ざめた。
「やめて蓮都」
わざわざ克己さんに言わないでよ。
なんて事を言うんだ。
「そうですか。お二人は以前お付き合いをされていたんですね。
……それをなぜ、俺に言うんです?」
「千代子の友達かな? と思いましたから」
なぜか克己さんは顔は笑っていたのに、目の奥は笑ってはいなかった。
じっと蓮都と目を合わせたまま。
「じゃあ、すいません。帰りますんで、お会計をお願いします」
「はい、お会計ですね。かしこまりました」
克己さんがレジの方に消えていく。
私は焦って蓮都に訴えた。
「ちょっ、ちょっと……。私は帰らないよ?」
蓮都はカップを持つ私の手を握ってきた。
慌てて私はふりほどく。
「話がしたいんだ。ただそれだけだよ」
恥ずかしい。恥ずかしいよ。
克己さんの前で、そういうことしないでくれるかな!
私は蓮都のわがままさにもやっぱり振り回されていた。