【私は今日も癒やしの『喫茶MOON』に通う】
第36話 貴教さんの視線の先
貴教さんは一度タオルで顔の汗を拭った。私が知っているいつもの柔和な表情からは想像もつかない、怒った顔を貴教さんはしていた。
「俺は千代子さんの友人です。貴男が誰だかは存じ上げないが、泣いていたのは貴男のせいですか?」
貴教さんの気迫にやや押されながらも、蓮都は彼の迫力に負けじと声を荒げた。
「俺は千代子の元カレだ! プロポーズしに会いに来たんだ。千代子! これっ!」
蓮都はさっき転がった小さい箱を開けて、箱ごと私の手に握らせていた。
私の手の中で小さな指輪が光っていた。
「こっこれって……」
「ずっと前に渡すつもりだった婚約指輪だ」
私の目からは涙が一粒こらえきれずにポタリとこぼれた。
これを欲しかったのは
あの時――
今じゃない……。
「ごめんなさい、蓮都。受け取れないよ」
「だめだ、千代子。断らないでくれ」
私が断ったので蓮都は取り乱していた。蓮都が私の手首をつかんで、引っ張ると蓮都の胸に寄りかかる形になってしまった。
不可抗力とは言え、貴教さんの前で蓮都にくっついているのがすごく恥ずかしくて、慌てて彼から離れようとした。
私の体はぐらっとよろけてしまった。
私の手から落ちた指輪がふたたび箱ごと転がっていく。
「チョコちゃんっ」
あっ。
気づくと心配そうに私を見る貴教さんの顔がすごく近くにあった。
ドキッとした。
貴教さんが抱きとめてくれたんだ。
「事情はよくは分からないが、俺にはチョコちゃんが貴男のプロポーズを喜んでいるようには見えないな」
私が見上げる貴教さんの視線の先には、うなだれた蓮都がいた。
蓮都は地面に転がった指輪を拾い上げて、潤んだ瞳を向けて来た。
「今日はこれで帰る。だけど千代子のことは諦めないから」
去っていく蓮都の背中は、しょげたように丸まって小さくなっていた。
私は貴教さんの温かい手を両肩に感じながら、結果的に蓮都から助けてくれた彼にどう話せばいいのか頭がぐるぐる回って考えがまとまらないでいた。
「俺は千代子さんの友人です。貴男が誰だかは存じ上げないが、泣いていたのは貴男のせいですか?」
貴教さんの気迫にやや押されながらも、蓮都は彼の迫力に負けじと声を荒げた。
「俺は千代子の元カレだ! プロポーズしに会いに来たんだ。千代子! これっ!」
蓮都はさっき転がった小さい箱を開けて、箱ごと私の手に握らせていた。
私の手の中で小さな指輪が光っていた。
「こっこれって……」
「ずっと前に渡すつもりだった婚約指輪だ」
私の目からは涙が一粒こらえきれずにポタリとこぼれた。
これを欲しかったのは
あの時――
今じゃない……。
「ごめんなさい、蓮都。受け取れないよ」
「だめだ、千代子。断らないでくれ」
私が断ったので蓮都は取り乱していた。蓮都が私の手首をつかんで、引っ張ると蓮都の胸に寄りかかる形になってしまった。
不可抗力とは言え、貴教さんの前で蓮都にくっついているのがすごく恥ずかしくて、慌てて彼から離れようとした。
私の体はぐらっとよろけてしまった。
私の手から落ちた指輪がふたたび箱ごと転がっていく。
「チョコちゃんっ」
あっ。
気づくと心配そうに私を見る貴教さんの顔がすごく近くにあった。
ドキッとした。
貴教さんが抱きとめてくれたんだ。
「事情はよくは分からないが、俺にはチョコちゃんが貴男のプロポーズを喜んでいるようには見えないな」
私が見上げる貴教さんの視線の先には、うなだれた蓮都がいた。
蓮都は地面に転がった指輪を拾い上げて、潤んだ瞳を向けて来た。
「今日はこれで帰る。だけど千代子のことは諦めないから」
去っていく蓮都の背中は、しょげたように丸まって小さくなっていた。
私は貴教さんの温かい手を両肩に感じながら、結果的に蓮都から助けてくれた彼にどう話せばいいのか頭がぐるぐる回って考えがまとまらないでいた。