【私は今日も癒やしの『喫茶MOON』に通う】

第39話 誰が好きで誰といたいのか

 貴教さんの告白は心地よい楽器の調べのようで、私はどこかBGMのように遠くの方で奏でられる曲のように思えた。
「告白するつもりはなかったんだ。答えもいらない。いや、答えは本当は欲しいけれど、チョコちゃんがマルさんを好きなことは分かっていたから、チョコちゃんを困らせたり苦しめたくはなかったんだ。ただ……」

 原因は蓮都だと思った。
 蓮都が私に詰め寄ったりするのを見て、貴教さんは蓮都に私が流されないように好きだって言ってくれたんだじゃないかと感じていた。

「……貴教さん、私」
「ごめん。断られるの分かってたけど、言わずにはいられなかった」
「……」
「『MOON』に来づらくなってチョコちゃんが来てくれなくなるのもイヤだったからずっと言わずにいようと思ったんだ」

 私は貴教さんに抱きしめられながら彼の落ち着くトーンの声をじっと聞いていた。

 その時ひときわ強い北風がびゅんっと吹いた。枯れ葉が空中に舞った。
 貴教さんの肩越しからよく知っている声がして、私はびくっとした。夢の世界から目が醒めるようだった。

「貴教。チョコちゃんには言わない約束だっただろ?」
 かっ…克己さんの声だ。
 私は慌てて貴教さんから離れた。克己さんの声はちょっぴり怒気が含まれている気がして胸が騒いだ。
 克己さんは走って来たのか、息をしながら肩が少し上下に動いている。
 彼はお店の制服姿のままだ。

「元カレのこと心配になって、チョコちゃんを探してたんだ。貴教といるとは思わなかった。……チョコちゃん。俺と貴教はチョコちゃんを好きだ。からかっているわけでも同情でもないよ。だけどチョコちゃんはチョコちゃんの気持ちを大事にして」
 お店を片付けて慌てて来てくれたのか。
 私は一気にザワザワと胸が騒がしくなった。
 パニックになっていた。

 貴教さんと克己さんが目の前で私をじっと見ている。

 二人が私を好きでいてくれているの?
 妹のように心配して言ってくれているだけじゃないの?
 二人が私に向けてくれる「好き」の種類がどうしても恋人になりたいとかといった「好き」だとは思えなかった。

 私なんかをこんなに素敵な二人が想ってくれる訳なんかないって思うから。
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