【私は今日も癒やしの『喫茶MOON』に通う】
第4話 東雲のおばあちゃんと瑠衣
「あっ。わ、私! 先に来ている連れがおります……ので」
瑠衣はマスターの貴教さんに最っ高の笑顔と普段使わないであろう声のトーンで答えていた。
ぷっと吹き出しそうになって私は堪こらえた。
「そうですか。ではごゆっくりどうぞ。後ほどご注文を伺いに行きますね」
マスターの貴教さんは目を細めて、にっこりと笑った。もうたぶんそれだけで瑠衣るいが恋に堕ちるには充分であろうと思われた。
瑠衣の顔は紅潮して、ポーっとなっている。
瞳は貴教さんの姿を追っている。
友達が一目惚れをする瞬間に立ち会うなんてなんか嬉しかった。
瑠衣の瞳は喜びの涙で潤み、漫画ならハートマークに溢れていることだろう。
「フフッ」
東雲のおばあちゃんも小さく笑っていた。
誰が見てもバレバレなほど、瑠衣は恋しちゃった女の子(30歳ですがあえて女の子と呼びます)そのものだった。
瑠衣が私たちの座る席に来たので私は東雲のおばあちゃんに紹介する。
「えっと。小学校からの友達の瑠衣です」
「初めまして。柏木瑠衣かしわぎるいです」
瑠衣が挨拶をしてペコリとお辞儀をした。
瑠衣の着ている甘くて淡い雰囲気のピンクのスカートの裾すそがふわっと揺れた。
瑠衣のお気に入りだったよな。
「こちらは東雲のおばあちゃんで和菓子屋の女将さんだよ」
「初めまして。東雲トキと申します」
「よろしくお願いします。あのっ。トキさんって呼んでも良いですか?」
トキさんはにこやかに優しく瑠衣に笑った。
「ええ。もちろん」
「千代子も『トキさん』って、呼びなよ〜」
そうだね。ずっと東雲のおばあちゃんって呼ばさせて頂いていて、なんでだっけ?
「良いですか? 私も」
「ええ、もちろんですよ。チョコちゃん」
そこから瑠衣は、東雲のおばあちゃんに……トキさんに質問三昧だった。
トキさんのこと、旦那さまのこと、そして喫茶「MOON」の双子のマスターのこと。
私はその間にマルさんを相変わらずチラチラと見ていた。
はあっ。渋くて格好いいな。
マルさんは喫茶店の荷物入れ用の籠にあった茶色い鞄かばんからノートを取り出した。それからマルさんはさらにボールペンと万年筆もゆっくりと机の上に出してから窓の外をジイっと見つめる。
マルさんは茶色い眼鏡を外して鞄から出した布でレンズを拭く。
うわっ。さらに素敵かも。
眼鏡を外したらマルさんの瞳が大きく見えた。
うーむ。いったい歳はお幾つでマルさんはお仕事は何をされているのでしょうか?
「千代子? ねえ聞いてる?」
「なっ? なにっ?」
瑠衣が片眉を上げた。ニンマリと笑った。
「千代子はもっとマシな格好して来ないと」
やっぱり言われた。
瑠衣ならそこ指摘してくると思ったよ。
私は自分のちょっとくたびれかけた愛用のスニーカーに目線を落とした。
金銭的に余裕はないよね。
ギリギリの生活だった。
喫茶「MOON」は私のただ一つの楽しみだから他は節約する。
もう両親が死んでしまっている私には祖父はいたけど。年金生活のおじいちゃんを頼るわけにはいかなかった。
田舎のおじいちゃんの事を思い出していた。
『そのうちなんとかなるさ』
おじいちゃんが落ち込んだ私によく言う言葉は不思議と心が落ち着くんだ。
瑠衣はマスターの貴教さんに最っ高の笑顔と普段使わないであろう声のトーンで答えていた。
ぷっと吹き出しそうになって私は堪こらえた。
「そうですか。ではごゆっくりどうぞ。後ほどご注文を伺いに行きますね」
マスターの貴教さんは目を細めて、にっこりと笑った。もうたぶんそれだけで瑠衣るいが恋に堕ちるには充分であろうと思われた。
瑠衣の顔は紅潮して、ポーっとなっている。
瞳は貴教さんの姿を追っている。
友達が一目惚れをする瞬間に立ち会うなんてなんか嬉しかった。
瑠衣の瞳は喜びの涙で潤み、漫画ならハートマークに溢れていることだろう。
「フフッ」
東雲のおばあちゃんも小さく笑っていた。
誰が見てもバレバレなほど、瑠衣は恋しちゃった女の子(30歳ですがあえて女の子と呼びます)そのものだった。
瑠衣が私たちの座る席に来たので私は東雲のおばあちゃんに紹介する。
「えっと。小学校からの友達の瑠衣です」
「初めまして。柏木瑠衣かしわぎるいです」
瑠衣が挨拶をしてペコリとお辞儀をした。
瑠衣の着ている甘くて淡い雰囲気のピンクのスカートの裾すそがふわっと揺れた。
瑠衣のお気に入りだったよな。
「こちらは東雲のおばあちゃんで和菓子屋の女将さんだよ」
「初めまして。東雲トキと申します」
「よろしくお願いします。あのっ。トキさんって呼んでも良いですか?」
トキさんはにこやかに優しく瑠衣に笑った。
「ええ。もちろん」
「千代子も『トキさん』って、呼びなよ〜」
そうだね。ずっと東雲のおばあちゃんって呼ばさせて頂いていて、なんでだっけ?
「良いですか? 私も」
「ええ、もちろんですよ。チョコちゃん」
そこから瑠衣は、東雲のおばあちゃんに……トキさんに質問三昧だった。
トキさんのこと、旦那さまのこと、そして喫茶「MOON」の双子のマスターのこと。
私はその間にマルさんを相変わらずチラチラと見ていた。
はあっ。渋くて格好いいな。
マルさんは喫茶店の荷物入れ用の籠にあった茶色い鞄かばんからノートを取り出した。それからマルさんはさらにボールペンと万年筆もゆっくりと机の上に出してから窓の外をジイっと見つめる。
マルさんは茶色い眼鏡を外して鞄から出した布でレンズを拭く。
うわっ。さらに素敵かも。
眼鏡を外したらマルさんの瞳が大きく見えた。
うーむ。いったい歳はお幾つでマルさんはお仕事は何をされているのでしょうか?
「千代子? ねえ聞いてる?」
「なっ? なにっ?」
瑠衣が片眉を上げた。ニンマリと笑った。
「千代子はもっとマシな格好して来ないと」
やっぱり言われた。
瑠衣ならそこ指摘してくると思ったよ。
私は自分のちょっとくたびれかけた愛用のスニーカーに目線を落とした。
金銭的に余裕はないよね。
ギリギリの生活だった。
喫茶「MOON」は私のただ一つの楽しみだから他は節約する。
もう両親が死んでしまっている私には祖父はいたけど。年金生活のおじいちゃんを頼るわけにはいかなかった。
田舎のおじいちゃんの事を思い出していた。
『そのうちなんとかなるさ』
おじいちゃんが落ち込んだ私によく言う言葉は不思議と心が落ち着くんだ。