【私は今日も癒やしの『喫茶MOON』に通う】

第42話 東雲菓子店の若旦那

小さな女の子のウェーブした金髪が可愛く揺れた。

 私が抱きついてきた女の子にびっくりしていると、「あらあら」と店の奥からまだ痛むのか足を少しびっこをさせながらトキさんが現れた。



「トキさん、この子誰ですか?」



 にこにこと愛想よく笑いながら見上げてくる女の子に抱っこをせがまれ、私は彼女を抱きあげた。

 ずっしりと重いな。

 重いけれど、そんなこと吹き飛んでしまうぐらいに、人懐っこくて嬉しそうに笑う瞳に癒やされる。

 横で瑠衣がトキさんに訊ねている。



「ふふっ。私の孫ですよ。まぁっ、チョコちゃんに甘えちゃって」

「「まごー!?」」



 青い瞳に金髪の女の子は「私、カンナだよ」とにっこり笑った。




 ✱✱✱




「初めまして。東雲熊五郎しののめくまごろうです」



 私と瑠衣の目の前に、50代ぐらいの男の人が正座をしている。

 でっかい男の人だ。『くまごろう』のくまって、きっと漢字の『熊』だよね。名は体を表している……。

 熊さん、みたい。



 私と瑠衣は茶の間に通されて、ちゃぶ台の前の大男と対面した。



 熊五郎さんの横にカンナちゃんがちょこんと座っている。好奇心旺盛な眼差し、とってもキュートな女の子だ。



 離れた場所にトキさんの旦那さんの源太さんが、むすっとした表情で座っていた。機嫌が悪そうだけど、もしかしたら具合が悪いのかしら?

 トキさんは小さな椅子に座っている。足に負担をかけないように、畳だったが椅子を置いているのかなと私は思った。



「父と母がお世話になりました」

「あっ、いえ」

「そんな。私はお見舞いに来ただけです。助けたのはこの千代子です」



 瑠衣は、私の両肩をがっちり後ろから掴んで前に押し出す。私は恥ずかしくなった。助けたって言ったって、あの時は貴教さんだって、マルさんだっていたんだもの。



「お見舞いも助かったよ。その後も様子を気にしてくれたんだなんて……。お二人ともありがとう」

 深々と熊五郎さんに頭を下げられて、私と瑠衣は恐縮してしまう。



「あのね、チョコちゃん、瑠衣ちゃん。面倒かけついでに実は折り入って頼みがあるんですよ」

 トキさんはにこにこしながら、私と瑠衣の顔を交互に見つめた。

「この東雲菓子店で働いてくれないかしら?」

「「えっ? えっ!?」」



 私たちには寝耳に水。

 突然の申し出にびっくりしてぽかんと口を開けてしまった。

 私と瑠衣は顔を見合わせ、数秒間声を出せなかった。
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