【私は今日も癒やしの『喫茶MOON』に通う】
第47話 デートを思い返してご機嫌なチョコちゃん
私は、昨日の夢のような時間を思い出してはニヤニヤとしています。
マルさんとの初デートは、隣に座るマルさんにどっきんどっきんと緊張しながら話題のSF映画を観て、その後はマルさんの行きつけのお蕎麦屋さんの創作ランチを食べて、家まで送ってもらいました。
別れ際、甘いムードにもならなかったし、「もう一軒お茶でもしに行こうか?」とは言ってもらえなかった。
でも、初デートなんだもの。
あまりガツガツとした感じで要求をして、マルさんを困らせてはいけないと自分に言い聞かせてた。
本音は、恋してる私としてはマルさんともうちょっと一緒にいたかったけれど。
なにも進展の無かった日々からしたら充分、充分だよね。――だって、二人で同じ時間を共有出来たのだもの。
私はマルさんから貰った栞をかざして眺めてから、仕事へ出掛ける準備をした。
私は今週は日曜日でも休みではなくって、今日は派遣の仕事が入っている。
派遣会社には仕事が見つかったことを話して、契約は終了することになった。だが、既に組んでいたシフト上であと数回お弁当の配達の仕事が残っているの。
高齢者や病気の人向けの宅配弁当サービスで、私の受け持ちの方々に、次の担当者と回ることになった。
挨拶もしたかったから、ちょうど良かった。
ずっと同じ10軒ほどのお家を担当させてもらっていたから、私はお客さん達と打ち解けていた。
お弁当の受け渡しの時に、皆さん、励ましてくれたりした。女の子一人で生きていくのは大変だけど頑張んなよと、応援してるよって言ってくれるお年寄りもいた。
私なんかでも、一人暮らしのお客さんは話し相手が来てくれてありがたいと感謝してくれるのも嬉しくてやりがいとなっていた。
そんな人達と会えなくなる、お別れはちょっと寂しかった。
だけど、これは転機だから。
次の仕事はトキさんと源太さんの元でだ。もうすぐ東雲菓子店で働けると思ったら、それは素直にすごく嬉しい。
人生は出会いと別れで出来ているんだな〜と思って、私はちょっぴり感傷に浸っていた。
職場に着くと、さっそく配達責任者と軽い打ち合わせをして、お弁当屋さんのロゴの入ったワゴン車にお弁当を積み入れる。
「今日の配達は……」
私は事務員さんと配達表を見て確認をしながら、自身の制服の裾を引っ張って皺を伸ばし、帽子をしっかりと被り直した。気持ちがしゃんとする。
私の配達担当を引き継ぐ白鳥さんは、女子大学生だった。奨学金を返すためにバイトを三つも掛け持ちしている。ここの事務員として働いていたのだけれど、ドライバーの方が時給が良いので兼任するようだった。
「藤本さんが辞めちゃうと寂しいです。たまに連絡していいですか?」
「もちろん。恋バナも愚痴も聞くよ?」
白鳥さんは母親と二人暮しで、将来はお母さんと小さなお店を開きたいそうだ。まだ具体的にはどんなお店にしたいかは決まっていないみたい。
私は白鳥さんが大変そうななかでも、それでも夢を持っている姿に羨望の思いを抱く。
私は、なにをしたいのだろう?
この年まで、夢らしい夢はなかった。どうせ叶わないとも思うひねくれた自分と、夢すら見られずにただひたすら一生懸命働いて、境遇のせいにして、そんな自分を憐れにも思ったりしている。
暮らしが上向きにならないとしたって、卑屈になってはいけないよね。
私は生きているんだもん。
ささやかでも楽しみを見つけて、一日一日大事にしようって。
お父さんお母さんが亡くなって数年は悲しみのどん底にいたけれど、ある日気づいたじゃない。大切な思い出は無くならないって。
私が二人の分まで生きようって。
どうせ生きるなら、喜びを見つけようと思った。
なかなかポジティブな気持ちを維持するのは難しい。
時折挫けてしまう。
それは私がたぶん弱くて暗い人間だから。
でも目の前に、私と同じように大変でも頑張っている人がいる。
そんな人達を見ていると、また頑張れる気がしてくるから不思議だった。
羨ましがったり、励まされたり、人と接していると、色んな感情が湧き上がって包まれて。
こうしてまた一日人生を重ねていく。
将来《さき》はひどく不透明だけれど、気持ちの持ち方一つで、私だってそんなに悪くない生き方をしてる、友達にも周りにいてくれる人にも恵まれてる。
そう私は思えて。
今はマルさんとデートできたことや、東雲菓子店で仕事ができること。お気に入りのお店、喫茶『MOON』の二人のマスターの貴教さんや克己さん、瑠衣の顔が浮かんでいた。
私はみんなのことを思い出すだけで、あたたかい気持ちになれていた。
マルさんとの初デートは、隣に座るマルさんにどっきんどっきんと緊張しながら話題のSF映画を観て、その後はマルさんの行きつけのお蕎麦屋さんの創作ランチを食べて、家まで送ってもらいました。
別れ際、甘いムードにもならなかったし、「もう一軒お茶でもしに行こうか?」とは言ってもらえなかった。
でも、初デートなんだもの。
あまりガツガツとした感じで要求をして、マルさんを困らせてはいけないと自分に言い聞かせてた。
本音は、恋してる私としてはマルさんともうちょっと一緒にいたかったけれど。
なにも進展の無かった日々からしたら充分、充分だよね。――だって、二人で同じ時間を共有出来たのだもの。
私はマルさんから貰った栞をかざして眺めてから、仕事へ出掛ける準備をした。
私は今週は日曜日でも休みではなくって、今日は派遣の仕事が入っている。
派遣会社には仕事が見つかったことを話して、契約は終了することになった。だが、既に組んでいたシフト上であと数回お弁当の配達の仕事が残っているの。
高齢者や病気の人向けの宅配弁当サービスで、私の受け持ちの方々に、次の担当者と回ることになった。
挨拶もしたかったから、ちょうど良かった。
ずっと同じ10軒ほどのお家を担当させてもらっていたから、私はお客さん達と打ち解けていた。
お弁当の受け渡しの時に、皆さん、励ましてくれたりした。女の子一人で生きていくのは大変だけど頑張んなよと、応援してるよって言ってくれるお年寄りもいた。
私なんかでも、一人暮らしのお客さんは話し相手が来てくれてありがたいと感謝してくれるのも嬉しくてやりがいとなっていた。
そんな人達と会えなくなる、お別れはちょっと寂しかった。
だけど、これは転機だから。
次の仕事はトキさんと源太さんの元でだ。もうすぐ東雲菓子店で働けると思ったら、それは素直にすごく嬉しい。
人生は出会いと別れで出来ているんだな〜と思って、私はちょっぴり感傷に浸っていた。
職場に着くと、さっそく配達責任者と軽い打ち合わせをして、お弁当屋さんのロゴの入ったワゴン車にお弁当を積み入れる。
「今日の配達は……」
私は事務員さんと配達表を見て確認をしながら、自身の制服の裾を引っ張って皺を伸ばし、帽子をしっかりと被り直した。気持ちがしゃんとする。
私の配達担当を引き継ぐ白鳥さんは、女子大学生だった。奨学金を返すためにバイトを三つも掛け持ちしている。ここの事務員として働いていたのだけれど、ドライバーの方が時給が良いので兼任するようだった。
「藤本さんが辞めちゃうと寂しいです。たまに連絡していいですか?」
「もちろん。恋バナも愚痴も聞くよ?」
白鳥さんは母親と二人暮しで、将来はお母さんと小さなお店を開きたいそうだ。まだ具体的にはどんなお店にしたいかは決まっていないみたい。
私は白鳥さんが大変そうななかでも、それでも夢を持っている姿に羨望の思いを抱く。
私は、なにをしたいのだろう?
この年まで、夢らしい夢はなかった。どうせ叶わないとも思うひねくれた自分と、夢すら見られずにただひたすら一生懸命働いて、境遇のせいにして、そんな自分を憐れにも思ったりしている。
暮らしが上向きにならないとしたって、卑屈になってはいけないよね。
私は生きているんだもん。
ささやかでも楽しみを見つけて、一日一日大事にしようって。
お父さんお母さんが亡くなって数年は悲しみのどん底にいたけれど、ある日気づいたじゃない。大切な思い出は無くならないって。
私が二人の分まで生きようって。
どうせ生きるなら、喜びを見つけようと思った。
なかなかポジティブな気持ちを維持するのは難しい。
時折挫けてしまう。
それは私がたぶん弱くて暗い人間だから。
でも目の前に、私と同じように大変でも頑張っている人がいる。
そんな人達を見ていると、また頑張れる気がしてくるから不思議だった。
羨ましがったり、励まされたり、人と接していると、色んな感情が湧き上がって包まれて。
こうしてまた一日人生を重ねていく。
将来《さき》はひどく不透明だけれど、気持ちの持ち方一つで、私だってそんなに悪くない生き方をしてる、友達にも周りにいてくれる人にも恵まれてる。
そう私は思えて。
今はマルさんとデートできたことや、東雲菓子店で仕事ができること。お気に入りのお店、喫茶『MOON』の二人のマスターの貴教さんや克己さん、瑠衣の顔が浮かんでいた。
私はみんなのことを思い出すだけで、あたたかい気持ちになれていた。