ルシウス様、お姉さまに張り合わないでください!
 近づいてきたルシウス様は私の手をとり、渡り廊下の中央へ私を誘導した。うやうやしく、そして大胆に近づく彼。ルシウス様の甘い香りが風に乗り、私の鼻孔をくすぐる。愛おしい香り。

「ティアナ姫。いつも姫のおそばで、この命を貴女様に捧げます」

 いつもなら身体を熱くするルシウス様の甘い言葉に、なぜかどんどん冷静になっていく自分がいる。

「……」

 運命。
 それは、呪縛。

 そう考えたら肝が冷える。
 ルシウス様は呪縛の渦中にいる。

 私を守り、私を支えるため、そんな家系に生まれたから、ここにいる。私に愛をささやいている。
 愛の言葉すべてが、ルシウス様の「仕事」だ。

 私は先ほど感じたモヤモヤの原因に気付いてしまった。たまらずルシウス様から顔をそらし、遠く城壁の方へと視線を移す。

「姫、どうかされましたか」

 ルシウス様が普段と違う様子の私を見て、視界を遮るように覗き込んでくる。彼の綺麗な顔は今の私にとって無神経な暴力だ。

「ルシウス様は『運命』だから私の相手をするのですか」

 闘技場へ目を向け、私はモヤモヤの一端を吐き捨てた。ルシウス様が視界の隅で首をかしげる。
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