ルシウス様、お姉さまに張り合わないでください!
 延期。
 それで良いのか。どこか納得できない。
 わずかな沈黙をルシウス様が切り裂いた。

「ティアナ姫。申し訳ございません、俺に時間をください」
「え?」
「延期は好ましくありません。ティアナ姫の評判にも関わりますし、招待客に失礼です」

 ルシウス様の発言が私の心にストンと落ちる。
 そうだ。簡単に延期なんて、お客様に失礼だ。出来る限りの事をしなくては。
 でも、脳裏に浮かぶお姉さまがそれを許さない。
 口を開けずにいると、ルシウス様の低い声が響いた。

「必要なものは今日中に全て手配します。それが出来たら、予定通り茶会を開催しましょう」
「でも」

 お姉さまの言いつけを無視するのは怖かった。でも。

「俺が責任を取ります。開催しましょう」

 ルシウス様の赤い瞳に信念の炎が宿る。力強く、勇ましい。

「わかりました、ルシウス様。明日までに支度が出来たら、予定通りお茶会を開催しましょう」

 私の返答にルシウス様が目を細める。そのまま私の手を取ると、その甲に軽く口付けをした。

「感謝します、ティアナ姫。俺を信じてくれて」
「ルシウス様、軽々しく口付けしないでください」
「それは無理なご相談です。愛するティアナ姫に俺の愛をきちんと伝えたいのです」

 本心じゃないくせに。
 その言葉は飲み込んだ。言ってはいけない気がした。たとえ本心ではなくても、私のため、国民のために彼は奮闘してくれるのだ。
 そうして私たちは、お茶会開催に向けて動き出した。
< 20 / 64 >

この作品をシェア

pagetop