ルシウス様、お姉さまに張り合わないでください!
 これは夢だ。
 そんな自覚があった。

 夢の中の私は真っ白な世界を歩いている。
 ところどころ色とりどりの花が咲いて、綺麗だ。

『ティアナ姫』

 私を呼び止める声が聞こえて、私は振り向いた。

『ルシウス様』

 そこにルシウス様が立っている。
 ブロンドの髪がさらさらと風になびき、甘い香りが漂ってくるようだ。背筋を伸ばし姿勢よく立っている姿はいつ見ても美しい。優しく目を細めた眼差しは、私を騙す悪人には見えなかった。

『なぜスパイなどおこなったのですか、ルシウス様』

 私はルシウス様から3メートルほど離れた位置に止まり、問いかけた。ルシウス様は私に手を伸ばし、私を抱え込もうとする。私を騙して、抑え込むように。

『答えてくださいルシウス様。ルシウス様は私を騙したのですか? 私を利用して機密情報を盗んだのですか?』

 私は自分自身で自分の身体を抱え込み、ルシウス様を拒絶した。
 言葉にすると悲しくなる。騙すなんて、ひどい。騙したなんて、聞きたくない。だけど、知らないままではいられない。苦しむとわかっていながら尋ねる。

 ルシウス様に目を向ける。
 目の前のルシウス様は悲しそうに眉を寄せていた。泣いているみたいにびゅうびゅうと風が吹く。
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