ルシウス様、お姉さまに張り合わないでください!
 ルシウス様の手が私に伸びる。私も彼に手を伸ばした。

『信じていただけますか、姫』

 うやうやしく手を差し出すルシウス様。その手に、私は自分の手を重ねる。

『手放しに信じる事は、できません。でも、貴方がスパイであると信じたわけでもありません。私は、真実を探します。何が本当なのか、見極めたい』

 触れた手から熱が伝わる。
 私はルシウス様を正しく評価したい。だから、逃げない。
 ルシウス様はいつも通り、私の指先にキスをした。

『じゅうぶんです。ありがとうございます、姫』

 温かなキスが偽物だったら悲しい。だからこそ、見極めなくては。私が、自らの手で。
 柔らかな風が吹いて、ルシウス様の甘い香りが私の心に触れた。

『のちほどお会いしましょう、ルシウス様』

 目を閉じる。
 包み込むような風に乗って、私は夢の世界をあとにした。


 包み込むような、柔らかな布団。
 目を覚ました私は涙でぬれたシーツを見て、自分の心を見た気がした。私はこれだけ悲しんでいる。客観的に見た涙に勇気づけられる。

「行こう、ルシウス様の元へ」

 真実を探さなくては。
 私は身支度を整え、城の牢獄へ向かうことにした。
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