ルシウス様、お姉さまに張り合わないでください!
 地下牢エリアに入りたい。そう言ったところで簡単に入れてもらえるわけがなかった。
 牢を守る近衛兵たちは「無理です」の一点張り。お姉さまの許可がなければ面会不可だ。

 ルシウス様と話せない。
 ならば、別のルートからルシウス様の足取りを追うしかなかった。
 もしも本当にルシウス様がスパイなら、どこかに諸外国との接点があるはずだ。
 お姉さまの出した資料には、お茶会で資材を調達した取引先の名前が載っていた。そこを当たれば、何かわかるかもしれない。

 私は執務室で発注リストを手に入れると、こっそりメイド服へ着替えて城下町へと繰り出した。護衛もつけずに出かけることは初めてである。緊張と恐ろしさと期待で心の中はぐちゃぐちゃだ。
 でも、探さなくては。真実を。
 私は勇気を振り絞った。

 街は活気があった。
 一軒目に訪れたのは仕立て屋だ。ルシウス様はここでシルクをまとめて発注している。

「ごめんください」

 ドアを開け声をかける。仕立て屋の中は真新しい布の香りが充満していた。隅に並ぶトルソーは、紳士服や婦人服が着せられていた。

「はい、ご用件はなんでしょう」

 店主は60代くらいの男性である。首から巻き尺を垂らし、ポケットにはハサミが刺さっている。作業中だったのかもしれない。
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