ルシウス様、お姉さまに張り合わないでください!
 お姉さまの問いに貴族たちが顔を見合わせる。

「特別な事はなにも。ただ普通に招待状を送り、お招きしていたのみです」

 それは至って普通の行動だ。相手を喜ばせる要素も、機嫌を損ねる要素もない。
 お姉さまはイライラと指を机に打ち付け、声を張り上げた。

「機嫌を損ねているのなら機嫌を取れ! この会談は延期できない。外交の腕の立つ者を呼べ! 今すぐ!」

 貴族たちは縮み上がりながら、そんな人間はどこにもいないと首を横に振る。けれど私には思い当たるふしがあった。ひとりだけいる。外交が得意な人が。信用できないかもしれないけれど、でも、それしか方法はない。
 私は意を決して口を開いた。

「お姉さま、私をルシウス様に会わせて頂けませんか」
「……は?」

 お姉さまが素っ頓狂な声を上げる。

「正気か?」

 無理もない。スパイに会いたいと言っているのだから。でも。

「正気です。ルシウス様は優秀なスパイであると聞きました。外交で右に出る者はいないと。ルシウス様の知恵を借りれば、この事態を解決できるかもしれません」
「……ふむ。まあ、一理ある」
「それにルシウス様は本心はどうであれ『私のためなら何でもする』と常々おっしゃっています。上手く頼めば力を貸してくれるかもしれません」

 私の提案にお姉さまは納得したように数回頷いた。
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