ルシウス様、お姉さまに張り合わないでください!
「女王陛下が触れたすべて、俺が上書きします」

 髪から耳、首筋へ。ルシウス様の顔が優しく私を撫でていく。甘いキスに心を奪われ、恥ずかしさと心地よさで、めまいがした。

「いけません、ルシウス様」

 けれど触れられたところが嬉しくて、もっともっと触れてほしくなってしまう。このまま、破廉恥な人間になってしまう――。

 などと考えていた私はふと我に返り、ルシウス様の肩越しに感じた禍々しい空気へ目を向けた。
 お姉さまが鬼の形相で私たちを見ている。

「ルシウス、貴様私の可愛い可愛い妹に何をしている? ……殺すぞ?」

 お姉さまの目がすわっている。人殺しの目だ。そんなお姉さまに対して、ルシウス様は私を抱き寄せながら不敵な笑みを浮かべた。

「恐れ入ります女王陛下。このルシウス・マーシャル、ティアナ姫のため陛下の行為を上書きさせて頂いております」
「……殺す!」

 お姉さまはショートドレスをたくし上げ、太ももに巻き付けていたホルダーから短剣を取り出すと、ルシウス様めがけて振り上げた。ルシウス様がふわりと私から離れていく。

「申し訳ございません、ティアナ姫! このルシウス・マーシャル、一度退散いたします。また今夜、先ほどの続きをいたしましょう。……では、失礼いたします!」

 ルシウス様はそう言い残し、脱兎のごとく庭園を駆け抜けていった。お姉さまも短剣を振りかざし「待てこの下衆野郎!」と叫び追いかけている。

 お姉さまとルシウス様はいつもこうだ。私を取り合い、喧嘩する。
 取り残された私は一人、色とりどりの花に囲まれながら二人を見送った。
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