ルシウス様、お姉さまに張り合わないでください!
「陛下、頭をお上げください」

 さすがのルシウス様も慌てて、身をかがめ返した。お姉さまの予想外の行動に、どうしたら良いのかわからない様子だ。
 けれどお姉さまは、一向に顔を上げる気配がない。

「悪い事をした、ルシウス・マーシャル。すまなかった。知らなかったのだ。貴様がずっと私の国政を支えていた事」

 お姉さまは頭を下げながら、南国の王からすべてを聞いたとルシウス様に告げた。

「ルシウス、お前はずっと一人で諸外国のパイプ役を担っていたのだな。私はそれも知らず、投獄など無礼な真似を……すまなかった」
「恐れ入ります、女王陛下。しかし隠密行動していた自分が悪いのです。陛下の意向を聞くことなく勝手に動いていたのですから、反逆行為でございます」
「いや、咎める気はない。……今後も、よろしく頼む」

 ルシウス様とお姉さまが、和解の握手を交わしている。二人の関係が良くなる事は、私も嬉しい。

「ところでルシウス。貴様、なぜ隠密行動をとっていたのだ?」

 お姉さまの問いかけに、ルシウス様は不敵な笑みを浮かべた。

「それはもちろん、ティアナ姫への愛を示すためでございます!」
「……愛?」
「ええ。このルシウス・マーシャル、公務や仕事ではなく愛ゆえに日々行動していた、それを証明し続けていたのです!」

 高らかに宣言するルシウス様。笑顔が眩しい。吹っ切れたのか、恥ずかし気もなく宣言している。
 お姉さまがルシウス様の宣言を受け、負けじとニヤリと笑った。

「ほう、笑わせるな。幼いティアナを姉として親として皇帝として育ててきた私の愛こそ、誰にも負けぬ愛だ!」

 対抗するお姉さまに、ルシウス様も声を張り上げる。

「何をおっしゃいます女王陛下! 20年以上も隠れて姫を支えてきたこのルシウス・マーシャルの愛こそが世界一でございます!」

 ……また始まった。
 私は二人の小競り合いに呆れ、こっそり部屋を抜け出した。
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