ルシウス様、お姉さまに張り合わないでください!
 私の頬は恥ずかしさでカッと熱を持った。
 親密なふれあいをお父上に認知され、謝罪されるなんて、いたたまれない。
 けれど姫である私は毅然として、笑顔を取り繕った。

「いえ、とんでもございませんわ、マーシャル公爵。ルシウス様のおかげで毎日楽しく過ごせています。ルシウス様はいつも私を守ろうと」

 そこまで言って、言葉に詰まる。先ほどのルシウス様が頭に浮かんでしまい、離れない。
 ルシウス様の唇が私の髪に、顔に触れる、あの感触。
 ブロンドの髪から香る甘い匂い。
 優しい声。溶けそうになるほどの熱。
 すべてがリプレイされる。

 熱い。

「――姫、お加減すぐれませんか」
「あ、いえ。ごめんなさい、大丈夫ですわ」

 私はもう一度口角を上げて見せた。しかしマーシャル公爵は私が無理をしていると感じたのか、ため息と共に首を横に振る。

「息子には厳しく言いつけます。どうか、許してやってください」
「許すだなんて。私、ルシウス様と仲良くできてとても嬉しいのですよ」
「左様におっしゃって頂き、ありがたく存じます」

 マーシャル公爵ははにかみ、胸をなでおろした。

「ルシウスには姫に相応しい男になるよう、姫をお守りできるよう、幼き頃から常々きつく言い聞かせておりましたので」

 ズキン。
 マーシャル公爵の発言に、私の心がなぜか痛む。なぜだろう。わからない。わからないけれど、何かが引っ掛かって、私は目を伏せ会話を終えた。
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