水曜日の黒猫
レモネードキャンディのお兄ちゃん
 水曜日の夜は、いつもレモネードキャンディを食べる。

 昔迷子になった時にお兄ちゃんがくれた、甘くて、爽やかな味が今では宝物。 

 これを口の中に入れて転がす度、思い出すのだ。   ――また会えますように……と願いをこめながら、今でも忘れられない、淡くて遠い、懐かしい記憶だ。



 「お兄ちゃんの名前なんだっけ……?」


 ベランダから覗く夏景色をぼーっと眺めながら考えてみるが、雲をつかむようなものだった。

 
 確かに聞いたはずなのに。


 覚えているのは、月灯りに照らされてお兄ちゃんと歩いた夜道と――瓶の中で星が煌めくように入っているレモネードキャンディのことだけだ。


 「お兄ちゃん、今頃どうしてるかなあ」


 あの手に引かれていた時感じたことは、このままどこまでも歩いてゆけそうな夢のようなひとときだった。

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