水曜日の黒猫
 失ったと思っていたものは、全部ちゃんと胸の中にあった。きっかけがあればいつだって思い出せたはずのに、それを拒んだのは自分自身だったかもしれない。


 わたしはそっと瓶からキャンディを取り出し、口に放り込む。




「……“水(すい)”」



 キャンディのお兄ちゃんは、ずっと変わってなかった。“あの頃”のままだ。





 女の子に手を振り見送った後――宵闇の人が振り返る。




「月(るな)。あの日の、夢の続きをしよう」



< 11 / 15 >

この作品をシェア

pagetop