水曜日の黒猫
 ミニサボテンがちょこんと窓辺に飾られている。キャンディが空になった後の瓶だろうか、色鉛筆のように色とりどりの花弁が敷きつめられていた。


 「……花びらのキャンディ、みたい」

 「むかし、水曜日がきらいな迷子の女の子が言ったんだ。「水曜日なんてなくなっちゃえばいいのに。水曜日なんてだいきらい」だってな。

 俺とその子にとって、毎日が特別な日になるように“水曜日”を選んだ――俺を“魔法使い”にしてくれたんだよ“月(るな)”は」


――まだ試作のキャンディだったけど。あの子も、今日訪れたお姫さまも掬える“水曜日の魔法使い”でいたかった、と宵闇の人は月灯りをともしてゆくように、教えてくれた。


  もうこらえきれなかった。


  水曜日への呪いは、全部解けてしまった。



「キャンディのお兄ちゃん……!!」


 胸の中へ思いっきり飛び込むと、あの日のレモネードキャンディの淡い幻が微かに香った。


 「名前呼んで」

 「“水(すい)”、――約束を、夢を叶えてくれてありがとう。“水曜日の黒猫”思い出したの」



 香りと言葉は魔法だ。永遠に、解けることのない優しい魔法。


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