水曜日の黒猫
 中に足を踏み入れたら、そこは宝の山だった。


 棚に陳列する月灯りのような優しい色のキャンディがずらりと並ぶ。小さい頃好きだった魔法使いの出てくる絵本も確か、こんな感じだった。


 魔法使いもレモネードのキャンディが好きで、たくさん集めていた。自分で作って売るのも魔法使いは好きだった。そしてそのキャンディは、悩みを抱えた人たちの心を明るく照らすのだ。

 
 瓶の中で輝く星は、棚以外にも夜空に見立てたテーブルクロスが敷かれた上で存在感を放っていた。


「どうだ、気に入ったか。好きなものを食べていいぞ」

「でも」

「気にしなくていい。“水曜日”は黒猫にとっても特別だからな」

「……“水曜日”って特別なの?」

 わたしが問いかける。

 すぐ返ってくる――そんな風に考えていたが、奇妙な沈黙が流れる。

 別に居心地が悪いってわけでもないのだが、なぜ答えてくれないのか疑問だった。これは普通な行動だろう、誰がどう見ても。


 美しい椿の瞳をしたその男の人は、レモネード色のエプロンをしている。


 “水曜日”


 “レモネード”


 “キャンディ”



 ――キャンディのお兄ちゃん……?

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