水曜日の黒猫
 わたしを救い出すように、当たり前のように、レモネードキャンディのたくさん入った小瓶をくれたお兄ちゃん。


 わたしはまだ、言い出せない。


「キャンディをくれたお兄ちゃんですか」と。


 心の水底に伝えたい言葉を飲み込み、丁寧に並べられたキャンディの入った瓶を見て回る。レモネードキャンディ――風薫るミント、香りの女王ラベンダー、あまいミルク、屋台のラムネ……そこには様々なラベルが貼ってあって、美味しそうな言葉が散りばめられている。


「――これは……」


 ふと見つけた瓶には“水曜日の黒猫”と描かれている。


 “水曜日”と“黒猫”。


 自分の中ではどうしてもその言葉が繋がらず、星にもならない。焦燥にかられるものの、きっとヒントはくれないだろう。


 きっとそう、思い出してほしいと思っているのなら。

  
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