水曜日の黒猫
 それは突然破られる、ある訪問者によって。


 勢いよく扉が開け放たれた先にいたのは、小さな女の子だった。さくら色のふわっとしたシンプルなスカートをはいたお姫さまは、宵闇の人を見つけるやいなや駆け寄って足にしがみつく。


 「キャンディのお兄ちゃん」

 「今日はどうしたんだ」


 女の子のためにしゃがみ込み、優しく笑いかける。慈愛に満ちたその表情は、聖女マリアのようにやわらかい。――同性でも惚れてしまうのではないだろうか。


「あのねあのね……! ママがキャンディ食べすぎだからってとりあげちゃったの……!」

 
 瞳に涙の泉を溜めて、女の子はよほど悔しかったのか、ママなんてきらいと言っている。
  



「なるほど。じゃあお兄ちゃんが魔法をかけてやる。だからもう、ママがきらいだなんて言うなよ。それは、どん言葉の魔法より一番痛いんだからな」



 女の子の手の中が、花びらのキャンディでいっぱいになる。


 言葉の魔法、キャンディの魔法、笑顔の魔法。

 この人は――いくつ魔法が使えるんだろう、わたしまでもが、笑顔の花がぱっと咲いた。それを見た宵闇の人は少年のように笑い、それから女の子に言った。

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